久しぶりに30分ほど歩いたら、翌日から膝が痛くなった。休みの日に少し走ってみたら、階段の上り下りがつらい。そんな経験があるなら、このまま続けていいのか、休んだほうがいいのかで迷うところだと思います。
痛みが出たときに何を基準にするかを先に決めておくと、我慢して続けるか、そのままやめるかだけで考えずに済みます。
危ないのは、ふだん動いていない人が急に増やしたとき
若い頃に部活や運動をしていた記憶があると、そのときの感覚が体の基準として残っていることがあります。基準が当時のままだと、初日から昔と同じ距離を歩こう、走ろうとすることもあります。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、「運動関連の有害事象の発生リスク」が高くなる場面として2つを挙げています。強度の高い運動を行ったときと、「不慣れな人(普段の身体活動量が少ない人・強度が低い人)が急に普段以上の運動を行ったとき」です。リスクが低い側に挙がっているのは「低~中強度の運動を行ったとき」です。
2つめは、強度だけでなく増やし方を見ています。「強度が低い人」がリスクの高いほうに置かれているとおり、運動そのものが強くなくても、ふだんより急に増やせばこちらに当たります。ふだん体を動かす量が少ない人や、軽い運動が中心の人が、急にふだん以上の運動をした場合です。
基準になるのは、若い頃の運動量ではありません。いまふだんどれだけ体を動かしているかです。同じ資料の「運動関連の有害事象の発生リスク」の図の最後には、ふだんの運動量や強さ、やりたい運動、病気や症状があるかを確かめたうえで「個人の状態に合った運動を徐々に進めていく」とあります。
厚生労働省のe-ヘルスネットは、スポーツで生じるけがを、性質の違う2つに分けています。
スポーツ外傷
- (1回の外力で)突然発生する急性外傷。
スポーツ障害
- 使い過ぎに関連し、時間の経過とともに徐々に発生する慢性障害。
(厚生労働省 e-ヘルスネット「運動実施時のけが・事故」)
使い過ぎに関連するのは、2つのうち後者です。ただし同じページには「場合によっては、使い過ぎによる損傷が急性外傷の原因となることがあります」とも書かれていて、2つがきれいに分かれるわけでもありません。どちらに当たるのかを見分けようとしなくて構いません。
膝の変化についても、日本整形外科学会が説明しています。原因の多くは関節軟骨の老化で、肥満や生まれつきのなりやすさも関わるとしたうえで、「加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、遣い過ぎによりすり減り、関節が変形します」と書いています。膝ひとつの話ですが、遣い過ぎが変化に関わるのなら、運動量を増やす速さにも気をつけたいところです。
足元を整え、体を温めてから動き出す
まず足元です。厚生労働省のガイドは、運動時の服装や靴について「快適で安全に運動できる適切なものを身につけることを勧めます」としています。歩き出す前に、いま履こうとしている靴が足に合っていて安全に歩けるものかを、一度確かめておきます。
準備運動について、スポーツ庁は「外傷・障害を予防するためには、運動・スポーツを開始する直前に準備運動を行い、体温や筋温を上げることが重要です」としています。同じ資料は「運動・スポーツの種類によらず、ストレッチングや動き作りなどを通して体が動きやすい状態をつくることが、怪我の予防の観点からも効果的です」とも書いていて、運動の種類を限っていません。
かける時間の目安が示されているのは、強い運動についてだけです。厚生労働省のe-ヘルスネットが「15分程度のウォームアップを実施する必要があります」と書いているのは、「競技スポーツのためのトレーニングなど、高強度の運動を定期的に行う場合」についてです。
久しぶりに走ったり跳んだりするときは、とくに気をつけます。スポーツ庁はアキレス腱の断裂について「久しぶりに運動・スポーツをする中高年に多く発生します」「前兆なく発生するため、運動開始前のウォーミングアップが重要です」と書いています。前触れなく起きるなら、痛みが出るのを待って判断することはできません。体を温めておくことは、そうした場面での備えになります。
ただし、温めれば急に強く動いてよいということではありません。備えたうえで、動きの強さそのものは少しずつ上げていきます。
運動のあとについては、スポーツ庁が「運動・スポーツを実施した後は、ストレッチングを含むクールダウンを実施することも、疲労回復や外傷・障害予防の観点から効果的です」としています。厚生労働省のガイドは、ある程度の強度の運動をしたあとに5〜10分ほど体をゆっくり動かす整理運動を挙げ、その目的の一つとして「慢性障害や筋痛の予防」を挙げています。
体を支える筋肉を保っておく
膝については、筋肉を鍛えることが予防として挙げられています。日本整形外科学会は変形性膝関節症の予防に「ふとももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える」ことを挙げています。厚生労働省のガイドのほうは、けがの予防としてではなく、成人と高齢者に筋トレを週2〜3日行うことを勧めています。同じガイドには「筋肉は年齢に関係なく鍛えることができます」とも書かれています。
ただし、フォームによっては膝を痛めやすくなります。厚生労働省のe-ヘルスネットは、膝が前に出るフォームのスクワットを「膝傷害の危険性という点ではあまり勧められません」とし、「お尻を後ろに引いて上体をやや前傾し、膝が前に出ないフォーム」で行う必要があるとしています。
そのうえで勧めているのが、椅子から立ち上がって座る動作を繰り返す「椅子スクワット」です。椅子に座るために自然にお尻を引いた姿勢になるため、膝を痛めにくいフォームになります。立ったまま左右のももを交互に上げる「腿あげ運動」も合わせて行うとよい、とされています。
始める時点で、中止する基準を決めておく
痛みが出てから何を基準にするかを考えると、その日の予定を優先してしまうことがあります。スポーツ庁は、運動の前と運動中にやめる目安を示しています。厚生労働省のガイドは、運動のあとに量を見直す目安を示しています。運動をやめても症状が続くときの受診については、厚生労働省のe-ヘルスネットに目安があります。
| いつ | 見るところ | どうするか |
|---|---|---|
| 運動の前 | 足腰の痛みが強く、運動しにくそうなとき | その日の運動を中止する |
| 運動中 | 関節や筋肉の強い痛み | 運動を中止する。症状が続くなら医療機関で診てもらう |
| 運動のあと | 翌日のふだんの生活に差し支える疲れ | 休んで、次は量や強さを下げる |
| どの場面でも | 運動で使っている部位に痛みがあるとき | 使い過ぎによるけがを防ぐため、休む |
運動の前について、スポーツ庁は体調の項目を挙げ、「運動・スポーツの開始前に以下の症状・状態があり、運動・スポーツに支障が出そうな場合は、運動・スポーツを中止しましょう」としています。その項目の1つが「足腰の痛みが強い」です。
運動中についても同じように項目を挙げ、「運動・スポーツ中に以下の症状・状態が生じた場合は、運動・スポーツを中止しましょう」としています。こちらには「関節や筋肉の強い痛み」が含まれています。
どちらの一覧にも、関節や筋肉の痛み以外の項目が並んでいます。表に挙げたのは、そのうち関節や筋肉の痛みに関わるものです。一覧の全体はスポーツ庁の「運動・スポーツを実施する皆さまへ」にあり、ほかの項目にあてはまるときも、その一覧が示すとおりに運動を中止します。
痛みが強いかどうかで迷うこともあります。スポーツ庁は、同じ場所を使い過ぎて痛めることを防ぐために、次のように書いています。
同一部位の過度な使用を避け、練習・トレーニングの量・強度の調整を行うとともに、疲労がある場合や体の部位の痛みがある場合は、適切に休養を取りましょう。
同じ場所を使い過ぎず、運動量を加減し、疲れや痛みがあれば休む、という内容です。ここでは痛みの強さを条件にしていません。運動で使っている部位に痛みがあるなら、強くなくても休むよう勧めています。
運動のあとについては、厚生労働省のガイドが翌日の状態を目安に挙げています。「翌日に疲れが残るかどうかは、運動強度や運動量を考えるときの重要なポイントとなります。翌日の日常生活に支障が出るような疲れが生じるときは、強度や量が過剰となっています。まずは休養をとり、次回からは運動強度・運動量を控え目にするなどの調整が必要です」。
翌日のふだんの生活に差し支えるほど疲れたら、まず休み、次の運動を軽くするという目安です。
目の前の痛みを、筋肉痛かケガかに見分けようとしなくて構いません。見るところは場面ごとに決まっています。運動の前と運動中は痛みの強さ、運動のあとは翌日に残る疲れです。運動で使っている部位に痛みがあるときは、強くなくても休みます。
これで決まるのは、その日の運動をどうするか、次の運動をどう調整するかまでです。休んでも症状が続くときは、医療機関で診てもらってください。
受診を考える目安
休んでも症状が続くときは、医療機関で診てもらってください。厚生労働省のe-ヘルスネットは、運動中に中止すべき症状を挙げたうえで「症状が続く場合は、医療機関を受診しましょう」としています。
腰の痛みについては、日本整形外科学会が受診を急ぐ目安を挙げています。「特に安静にしていても痛みが軽くならない、しだいに悪化する、発熱している、下肢がしびれたり力が入らない、尿漏れがするなどの症状を伴っている場合は、放置したり自分で管理することは禁物で、すみやかに整形外科を受診されることをお願いします」。
じっとしていても軽くならない、悪化する、熱がある、脚がしびれる・力が入らない、尿が漏れるときは、早く整形外科で診てもらう、ということです。
これは腰痛について示された目安で、膝や足首などに同じ一覧があるわけではありません。他の場所でも、休んで症状が続くようなら、医療機関で診てもらってください。
休めば痛みが引くから大丈夫。そう考えたことがあるなら、次の説明も確かめてください。日本整形外科学会は変形性膝関節症について「初期では立ち上がり、歩きはじめなど動作の開始時のみに痛み、休めば痛みがとれます」と説明しています。休めば痛みが取れることも、初期に見られる症状です。
持病がある人は、運動の内容を決める前にかかりつけの医師に相談してください。スポーツ庁も「疾患を有する方は、運動・スポーツを実施するに当たり、かかりつけ医がいる場合は、まずはかかりつけ医に相談しましょう」としています。
始める前に確かめておきたいことは、40代・50代、運動の始め方にもまとめています。
「休んだら元に戻る」という気持ちが、判断を鈍らせることがある
決めておいた基準を、その場で越えてしまった。そんな経験があるなら、スポーツ庁の資料にある次の一文が手がかりになります。
運動中の気持ちよさや達成感によって、疲労や痛みを感じにくくなることがあります。こうした状態が続くと、知らないうちに体に過度な負担がかかり、怪我や障害につながるおそれがあります。気持ちよく動けているときほど、体の変化に注意し、無理をせず休養を取りましょう。
痛みを軽く判断しやすくなる考えが、もう一つあります。せっかく続けてきたのに、ここで休んだら元に戻ってしまう。そう感じたことがあるなら、休みたくないために痛みを実際より軽く判断していないかを、一度確かめてみてください。
日本整形外科学会は捻挫について「痛みを感じにくい靭帯もあるため、余り痛くないから大丈夫と考えてはいけません」と書いています。痛みの強さだけでは判断がつかないこともあります。休んでも症状が続くようなら、医療機関で診てもらってください。
「意志が弱かったのかもしれない」。そう感じているなら、その前に、運動の量や強さを急に増やしていなかったかを確かめてみてください。運動の量や強さを急に増やしたことが、痛みに関係している場合もあります。
腰痛について挙げた症状——じっとしていても痛みが軽くならない、しだいに悪化する、熱がある、脚がしびれたり力が入らない、尿が漏れる——があるときは、運動の続け方を考える前に、整形外科で診てもらってください。
また動き出すときは、止まる前と同じところに戻そうとしなくて構いません。歩く時間を短くする、日数を減らす、平坦なコースに変える。まずは1つ変えるところからで構いません。
運動で悪化する腰痛や膝痛があると分かっている場合は、別の手順があります。厚生労働省のガイドは、その場合の工夫として4つを挙げています。最初に「あらかじめ医師に相談してから始める」とあり、続いて「低強度、短い時間から始める」「該当箇所に負荷がかからないような運動を選択する」「筋力トレーニングやバランス運動を加える」とあります。
厚生労働省のガイドは、筋トレについても「少しずつ負荷を高めていく」ことと「しっかりと筋肉を休める時間(休息日)をとることも同じく重要です」を並べて書いています。負荷を上げることと、筋肉を休ませること。どちらも重要だと並べられています。
日本整形外科学会は捻挫後のスポーツ復帰について「日常生活に支障がない程度に回復したといっても、いきなり元のレベルのスポーツに戻ろうとするとその過程で、またケガをする危険があります」と書いています。これは捻挫のあとに運動へ戻る場合の説明です。日常生活に支障がない程度まで回復したところから、元のレベルへ一気に戻すと、その過程でまた痛める、という内容です。
迷うときは、医療機関で診てもらってから決めてください。
間があいたあとの戻し方は、三日坊主と「再開」の技術にまとめています。
中止する基準を先に決めておくと、痛みが出たその場で迷わずに済みます。休む日をはさみながら、運動を続けていけます。
※ 出典: 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月公表、厚生労働省 e-ヘルスネット「運動実施時のけが・事故」「運動実施時のけが・事故の予防と対策」『安全かつ効果的に「足腰」を鍛える方法』、スポーツ庁健康スポーツ課「運動・スポーツにおける安全対策の評価・改善のためのガイドライン(試行版)運動・スポーツを実施する皆さまへ」2026年1月27日公表(発行元・公表日は同ガイドラインの掲載ページによる)、日本整形外科学会「変形性膝関節症」「捻挫」「腰痛」。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。