Briefing Note

新人1年目で『辞めたい』と思ったとき——データと専門家分析で読み解く早期離職の実態

大卒新入社員の34.9%が3年以内に離職し、58.8%が「辞めたい」と感じた経験を持つ。厚生労働省・パーソル総合研究所等の最新データと産業カウンセラーの専門分析から、新人の離職メカニズム・判断基準・対処法を体系的に整理する。

エグゼクティブサマリー

大卒新入社員の**34.9%が3年以内に離職し、在職者の58.8%が「辞めたい」と思った経験を持つ(厚生労働省, 2024;リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)。「辞めたい」は甘えではなく、環境変化に対する心身の正常な反応である。しかし、20代は職場に相談せず退職する割合が35.2%**と他年代より高く、「相談しても解決につながらない」という誤った予期が重症化と離職を加速させている(パーソル総合研究所, 2024)。放置すれば個人の健康毀損と組織の人材喪失が同時に進行する。早期の状態把握と適切な相談行動が、本人にとっても組織にとっても最も合理的な対処である。


定義と現状認識

定義: 新人1年目の「辞めたい」とは、入社後の急激な環境変化・理想と現実のギャップ・人間関係の構築困難等を背景に生じる離職意向であり、心身が発する適応負荷のサインである。甘えや根性の欠如ではなく、状態把握と対処を要する職業上の課題である。

典型的なシーン

  • 環境適応の壁: 学生時代の評価基準・時間の自由・人間関係が一変し、「何もかもうまくいかない」と感じる
  • 理想と現実のギャップ: 企画職志望で入社したが実際は資料作成と数字の集計ばかり。「3年は我慢」と言われても成長実感がない
  • 人間関係の孤立: 職場の雰囲気に馴染めず昼食も一人。朝起きると胃が痛み、日曜の夜から憂鬱になる

セルフチェック(5項目)

以下の状態が2週間以上継続している場合、専門家への相談を検討すべきである。

  • 朝起きられない、または夜眠れない日が続く
  • 食欲の著しい変化(食べられない、または食べすぎ)がある
  • 頭痛・胃痛など身体症状が繰り返し出現する
  • 休日でも疲労が回復しない
  • 些細なことで涙が出る、または感情の起伏が激しい

データとエビデンス

新卒離職率の推移

学歴 3年以内離職率 前年度比 出典
大学卒 34.9% +2.6ポイント (厚生労働省, 2024)
短大等卒 44.6% +2.0ポイント (厚生労働省, 2024)
高校卒 38.4% +1.4ポイント (厚生労働省, 2024)
中学卒 50.5% -2.4ポイント (厚生労働省, 2024)

事業所規模別離職率(大卒・3年以内)

事業所規模 離職率 前年度比
5人未満 59.1% +5.0ポイント
5〜29人 52.7% +3.1ポイント
30〜99人 42.4% +1.8ポイント
100〜499人 35.2% +2.3ポイント
500〜999人 32.9% +2.2ポイント
1,000人以上 28.2% +2.1ポイント

(厚生労働省, 2024)

産業別離職率(大卒・3年以内・上位5業種)

産業 離職率 前年度比
宿泊業・飲食サービス業 56.6% +5.2ポイント
生活関連サービス業・娯楽業 53.7% +5.7ポイント
教育・学習支援業 46.6% +0.6ポイント
小売業 41.9% +3.4ポイント
医療・福祉 41.5% +2.7ポイント

(厚生労働省, 2024)

退職理由と離職意向

項目 数値 出典
退職理由1位「労働環境・条件がよくない」 25.0% (リクルートMS, 2023)
退職理由2位「給与水準に満足できない」 18.4% (リクルートMS, 2023)
退職理由3位「職場の人間関係がよくない」 14.5% (リクルートMS, 2023)
「辞めたい」と思ったことがある 58.8% (リクルートMS, 2023)
辞めたい理由1位「やりがい・意義を感じない」 27.0% (リクルートMS, 2023)
辞めたい理由2位「給与水準が満足できない」 19.0% (リクルートMS, 2023)
辞めたい理由3位「自分のやりたい仕事ができない」 12.8% (リクルートMS, 2023)

入社1年目の壁

順位 内容 割合
1位 仕事に正解がなく、どうすればよいか分からない 27.1%
2位 与えられた仕事の意味ややりがいが感じられない 21.1%
3位 仕事が忙しくプライベートに割ける時間が少ない 19.3%

(リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)

若手のメンタルヘルス不調

項目 数値 出典
20代男性のメンタルヘルス不調経験率(過去3年) 18.5% (パーソル総合研究所, 2024)
20代女性のメンタルヘルス不調経験率(過去3年) 23.3% (パーソル総合研究所, 2024)
メンタルヘルス不調経験者の退職率(全体) 25.3% (パーソル総合研究所, 2024)
メンタルヘルス不調経験者の退職率(20代) 35.9% (パーソル総合研究所, 2024)
職場に相談しなかった20代の退職率 35.2% (パーソル総合研究所, 2024)
職場内での相談・報告率 46.1% (パーソル総合研究所, 2024)
上司に相談した割合 30.6% (パーソル総合研究所, 2024)
相談しなかった理由1位「解決につながらないと思った」 34.5% (パーソル総合研究所, 2024)
相談者のうち職場から支援的対応を受けた割合 約80% (パーソル総合研究所, 2024)

相談に対する認識ギャップ

項目 数値 出典
「相談後の職場の対応イメージがない」と回答した正規雇用者 約40%(20代で特に多い) (パーソル総合研究所, 2024)
「相談したら評価が下がる・居づらくなる」と認識 約40%(20代で特に多い) (パーソル総合研究所, 2024)
管理職のうち「仮病を疑った」割合 16.6% (パーソル総合研究所, 2024)
実際の仮病による休職の割合 1.0%(105人に1人) (パーソル総合研究所, 2024)

仕事の価値観(Z世代)

項目 あてはまる どちらとも あてはまらない 出典
仕事を通じた自己成長の実感 35.0% 40.8% 24.2% (マイナビ, 2024)
ひとの役に立つ仕事がしたい 48.6% 36.3% 15.1% (マイナビ, 2024)

労力をかけて得たいもの

順位 内容 割合 出典
1位 プライベートの時間が確保できる・充実させる 24.4% (リクルートMS, 2023)
2位 高い収入を得る 23.0% (リクルートMS, 2023)
3位 自分のやりたいことができる 16.8% (リクルートMS, 2023)

ストレス関連

項目 数値 出典
仕事に強いストレスを感じる労働者 68.3% (厚生労働省, 2024)
メンタルヘルス対策実施事業所 63.2% (厚生労働省, 2024)

悩みを話しやすい上司・先輩像

順位 特徴 割合
1位 仕事ができて的確なアドバイスがもらえそうな人 30.3%
2位 普段から自分の人間性や価値観を認めてくれる人 25.5%
3位 押し付けがましくなく話や気持ちを受け止めてくれる人 24.8%

(リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)

耳が痛いことを受け止められる上司・先輩像

順位 特徴 割合
1位 なぜそれが大事なのかが分かるように伝えてくれる人 40.9%
2位 言うことを本人が実践しており説得力がある人 33.6%
3位 普段から自分のことをよく見てわかってくれている人 33.2%

(リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)

辞めずに働き続ける理由

順位 理由 割合
1位 転職も検討しているがリスクもあると感じる 21.3%
2位 会社がつぶれる心配がない 18.0%
3位 転職も検討しているが条件に合うものが見つかっていない 14.2%

(リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)

セルフケアの基礎

項目 内容 出典
セルフケアの定義 ストレスとうまく付き合っていくための自分でできる対処法 (厚生労働省, こころの耳)
セルフケアの基本 まず「いつもの自分」を知り、「いつもと違う自分」に気づくこと (厚生労働省, こころの耳)
新入社員のストレス要因 「学生から社会人になった」という環境の大きな変化 (厚生労働省, こころの耳)
ツール 5分でできる職場のストレスセルフチェック (厚生労働省, こころの耳)

分析と含意(Analysis & Implications)

専門キーワード: 拒否回避志向、心理的安全性、認知の歪み、痛みへの鈍麻、学習性無力感、情緒的消耗感、リアリティショック、プレゼンティズム、もったいない離職

軸A: メカニズム分析——なぜ新人は「辞めたい」のに相談できないのか

新人の「辞めたい」には、3つの心理的メカニズムが複合的に作用している。

第一に、拒否回避志向の強さ。 パーソル総合研究所の調査が示すとおり、20代は「怒られたくない」「人目を気にする」「失敗を恐れる」という拒否回避志向が他年代より有意に高い。保護的な教育環境とSNSによる常時的な他者比較が背景にある。この志向が高いと、上司からの叱責がストレス反応を強く誘発する。注意すべきは、これは「打たれ弱さ」ではなく、成育環境が異なる世代の特性であるという点である。上司世代が「自分の若い頃は」と比較すること自体が無意味である。

第二に、相談行動の阻害構造。 「相談しても解決につながらない」と考える若手が34.5%に達する一方、実際に相談した人の約80%は支援的対応を受けている。このギャップは深刻である。「相談後の職場の対応イメージがない」「相談したら評価が下がる」という予期が相談行動を阻害し、結果として職場に相談しなかった20代の35.2%が退職に至っている。つまり、相談しないこと自体がリスク要因である。

第三に、痛みへの鈍麻。 「辛くない」と本人が感じていても、実際には心身が消耗している場合がある。社会的な「普通」を優先し、自身の苦痛シグナルを後回しにする認知パターンは、新人に限らず多くの働く人に見られる。月200時間の残業を「辛くない」と感じていた人間が、後年「痛みに鈍麻していた」と気づくこともある。身体症状(胃痛、不眠、食欲変化)が出ているにもかかわらず「新人だから仕方ない」と我慢している状態は、まさにこの鈍麻の初期段階である。

軸B: 制度・環境分析——組織は何を見落としているか

管理職の16.6%がメンタルヘルス不調者の「仮病」を疑っているが、実際の仮病率はわずか1.0%である。この16倍の認識ギャップは、組織のメンタルヘルス対応の質を根本から毀損する。管理職が疑いの目を持つ限り、部下は安心して相談できない。

制度面では、ストレスチェックやラインケア研修の管理職向け施策実施率は79.8%に達するが、セルフケア研修や情報提供といった非管理職向け啓発施策の実施率は34.7%にとどまる。管理職には「相談してほしい」という認識があるが、当の非管理職には「相談したらどうなるか」のイメージがない。この上下間の認識ギャップが、制度を形骸化させている。

「もったいない離職」という概念は重要である。本人のものの見方が狭い、組織が社員を活かす制度を活用できていない、コミュニケーションの行き違い——これらが複合的に絡み合い、「今の職場にいる意味が見つかる可能性があるにもかかわらず早期に見切りをつけた離職」が発生している。辞めずに働き続ける理由の1位が「転職も検討しているがリスクもあると感じる」(21.3%)であることは、積極的に残る理由がないまま消去法で在籍している層の存在を示唆する。

軸C: 影響分析——放置した場合に何が起きるか

メンタルヘルス不調経験者の退職率は全体で25.3%だが、20代では35.9%に跳ね上がる。約3人に1人が退職する計算である。

管理職側の負担も無視できない。部下のメンタルヘルス不調対応を経験した管理職の約5割が「精神的な負担が大きかった」、約4割が「業務上の負担が大きかった」と回答している。他のメンバーの業務量増加(35.2%)、業務調整の負担(26.2%)が課題として挙がり、一人の不調が組織全体に波及する構造が見える。

Z世代の仕事観も考慮すべきである。「プライベートの時間確保」(24.4%)が労力をかけて得たいものの1位であり、「やりがい」より上位に来る。自分の価値観と合わない環境では長期的な活躍が難しいとされ、価値観のミスマッチは離職の構造的要因となる。ただし、プライベート重視は「仕事にやる気がない」こととイコールではない。この誤解が上司世代との摩擦を生む。


推奨アクション

フェーズ1(初期対応)——状態を把握する

  • 身体症状の記録: 不眠、胃痛、食欲変化、涙が出る等の症状を日付と共に記録する。2週間以上継続する場合は次のフェーズへ
  • 感情の切り離し: 「辞めたい」理由を「環境に起因するもの」と「自分に起因するもの」に分類する。環境要因(ハラスメント、長時間労働)は自分一人では解決困難
  • セルフチェックの実施: 厚生労働省「こころの耳」の5分でできるストレスセルフチェックを活用する

フェーズ2(相談・行動)——一人で抱え込まない

  • 相談先の選定: 職場内(上司、人事、産業医)と職場外(家族、友人、公的相談窓口)の両方を検討する
  • 相談の事実: 相談者の約80%は職場から支援的対応を受けている。「相談しても無駄」は統計的に誤りである
  • 第三の選択肢の検討: 「辞める」「辞めない」の二択ではなく、部署異動・働き方変更・休暇取得・専門家相談といった中間的選択肢を検討する

立場別の分岐アクション

本人:

  • 「辞めたい」と感じること自体は甘えではないと認識する
  • 身体症状が出ている場合は、産業医またはかかりつけ医への受診を検討する
  • 相談時のフレーズ例: 「最近、以前と比べて集中力が落ちていると感じています。一度相談させていただけますか」

管理職・指導担当者:

  • 新人の変化(表情、発言量、遅刻頻度)を日常的に観察する
  • 「仮病」の疑いは統計的根拠がない(実際は1.0%)ことを認識する
  • 声かけのフレーズ例: 「最近少し気になっているのですが、業務量について話す時間を取れますか」

人事担当者:

  • 非管理職向けのメンタルヘルス啓発施策(セルフケア研修、社内報での情報提供)を実施する
  • 「相談後にどうなるか」の具体的なプロセスを全社員に周知する
  • 管理職と非管理職の認識ギャップを定期的に測定する

リソース案内

公的相談窓口

窓口 電話番号 受付時間
働く人の「こころの耳電話相談」(厚生労働省) 0120-565-455 平日17:00〜22:00、土日10:00〜16:00
よりそいホットライン 0120-279-338 24時間対応

セルフチェックツール

  • 5分でできる職場のストレスセルフチェック: 厚生労働省「こころの耳」が提供する無料ツール。自身の状態を客観的に把握できる

結論

新人1年目の「辞めたい」は、大卒の34.9%が3年以内に離職し、在職者の58.8%が離職を想起した経験を持つ現代において、決して例外的な感情ではない。問題は「辞めたい」と感じること自体ではなく、その感情を放置すること、あるいは相談行動を起こさないことにある。

データが示すのは明確である。相談した人の約80%は支援的対応を受けている。しかし、「相談しても無駄」という誤った予期が相談行動を阻害し、相談しなかった20代の35.2%が退職に至っている。組織側にも課題がある。非管理職向けの啓発施策の実施率は34.7%にとどまり、「相談後にどうなるか」が見えない環境が、相談の壁を高くしている。

最初の一手は、自分の状態を正しく把握することである。身体症状の有無を確認し、「辞めたい」理由を環境要因と自己要因に分類する。その上で、「辞める」「辞めない」の二択に追い込まれず、第三の選択肢を含めて検討する。判断を急ぐ必要はない。


よくある質問(FAQ)

Q. 新人が「辞めたい」と思うのは甘えですか?

甘えではない。大卒新入社員の58.8%が「辞めたい」と思った経験を持ち(リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)、入社1年目の壁として「仕事に正解がなく、どうすればよいか分からない」(27.1%)が最多である。環境変化に対する心身の反応であり、状態把握と適切な対処が必要なサインである。

Q. 新卒1年目で辞めると転職に不利ですか?

一概に不利とは言えない。大卒3年以内離職率は34.9%であり、第二新卒としての転職市場は存在する。ただし、「労働環境・条件がよくない」(25.0%)のような環境要因と「仕事にやりがいを感じない」(27.0%)のような自己要因を区別し、転職で解決する問題かどうかを見極めることが重要である。

Q. 「とりあえず3年」は正しいですか?

根拠のある基準ではない。重要なのは期間ではなく、その間に成長実感やスキル獲得が見込めるかどうかである。心身を消耗している、ハラスメントがある、改善の見込みがないといった状況であれば、3年を待つ合理的理由はない。一方、辞めずに働き続ける理由の1位が「転職にもリスクがある」(21.3%)であることからも分かるように、消去法で在籍している状態は本人にとっても組織にとっても望ましくない。

Q. 誰に相談すればいいですか?

職場内では上司(相談率30.6%)、人事、産業医、社内相談窓口が選択肢である。職場外では家族、友人、厚生労働省「こころの耳」(0120-565-455)、よりそいホットライン(0120-279-338)がある。相談者の約80%は職場から支援的対応を受けており、「相談しても無駄」という認識は統計的に誤りである(パーソル総合研究所, 2024)。

Q. 管理職として新人の「辞めたい」にどう対応すべきですか?

まず、メンタルヘルス不調による「仮病」はわずか1.0%であり、疑いの姿勢は統計的根拠がない。新人が悩みを話しやすい上司像は「仕事ができて的確なアドバイスがもらえそうな人」(30.3%)、「人間性や価値観を認めてくれる人」(25.5%)、「押し付けがましくなく受け止めてくれる人」(24.8%)である(リクルートマネジメントソリューションズ, 2023)。「なぜそれが大事なのか分かるように伝えてくれる人」(40.9%)なら耳が痛い指摘も受け止められる。


出典・参考文献

公的機関資料

民間調査機関


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著者プロフィール

江原和比己(えはら かずひこ)

産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)。かずな総合研究所代表。約25年の会社員経験(ITエンジニア)を経て、2018年に独立。自身も20代に月200時間超の残業を経験し、後年「痛みに鈍麻していた」と自己分析に至った。SFBT(解決志向ブリーフセラピー)を基盤とするブリーフコーチングで、働く人の心身の最適化を支援する。「止まってもいい。何度でも歩き出せば、その一歩が未来を変える。」をリセット・メソッドとして実践・発信している。

本文書は一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療に関する助言に代わるものではありません。症状が深刻な場合は、医療機関への受診をお勧めします。記載されたデータは各出典の公開時点のものであり、最新の情報については各機関の公式サイトをご確認ください。