Briefing Note

復職後の再休職を防ぐために会社ができること――データと制度に基づく実務ガイド

復職後の再休職率は47〜54%。厚生労働省の手引き・NIVR調査・看護科学学会の研究を統合し、業務量調整・面談設計・兆候把握の3軸で企業の再休職予防策を産業カウンセラーが分析する。

エグゼクティブサマリー

うつ病休職者の47.1%が5年以内に再休職し(厚生労働省, 2017)、復職・転職者の53.7%が再休職を経験する(レバレジーズ, 2025)。一方、職場復帰支援プログラムを策定している事業所は全体の25.1%にとどまり、10〜29人規模では21.3%である(厚生労働省, 2024)。再休職は個人の問題ではなく、組織の仕組みの問題である。業務量の段階的調整、定期面談による変化の捕捉、再休職の兆候の早期把握——この3つを制度として整備することが、再休職率の低減と安全配慮義務の履行を両立させる鍵となる。

定義と現状認識

定義: 再休職とは、メンタルヘルス不調により休職した労働者が職場復帰した後、再度メンタルヘルス不調を理由に連続1か月以上の休業に至ることである。

再休職は単なる再受療の負担増ではない。うつ病は再発の度に再発率が上昇し、重症化し、社会的機能が低下し、QOLに大きな影響を与える(新田ら, 2024)。職場においても、本人の自信喪失・信頼低下にとどまらず、「精神疾患は治らない」という偏見の増加、早期相談への躊躇、ひいては長期休業者の増加という組織全体への影響が生じる。

過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%であり、10年間で10.0%から上昇し続けている(厚生労働省, 2024)。生涯に約15人に1人がうつ病を経験するとされる現代において(厚生労働省)、再休職は特殊なケースではなく、どの職場でも起こりうる経営課題である。

再休職リスクの判定チェックリスト

以下に該当する項目が多いほど、再休職のリスクが高い状態にある。

  • 復職後の業務量調整計画(復職支援プラン)が文書化されていない
  • 定期面談のスケジュールが事前に決まっていない
  • 復職後のフォローアップを特定の個人(上司等)に依存している
  • 主治医の「復職可能」をそのまま「以前通り働ける」と解釈している
  • 産業医がおらず、外部の相談先(地さんぽ等)を把握していない

データとエビデンス

再休職率

指標 数値 出典
うつ病休職者の5年以内再休職率 47.1% (厚生労働省, 2017)
復職・転職者の再休職経験率 53.7% (レバレジーズ, 2025)
転職先での再休職率 約40%以上 (レバレジーズ, 2025)
復職後1年未満での再休職 過半数 (レバレジーズ, 2025)
リワーク利用者の約1年後の再休職・失職率 約20% (大木・五十嵐, 2013)

メンタルヘルス不調による休業・退職の状況

指標 数値 出典
休業・退職者がいた事業所の割合 13.5% (厚生労働省, 2024)
連続1か月以上休業した労働者がいた事業所 10.4% (厚生労働省, 2024)
退職した労働者がいた事業所 6.4% (厚生労働省, 2024)
連続1か月以上休業した労働者の割合(全労働者比) 0.6% (厚生労働省, 2024)
退職した労働者の割合(全労働者比) 0.2% (厚生労働省, 2024)
10年間の推移(休業・退職者がいた事業所) 10.0%→13.5% (厚生労働省, 2024)

事業所規模別・メンタルヘルス不調による休業または退職者がいた割合

事業所規模 割合 出典
1,000人以上 91.2% (厚生労働省, 2024)
500〜999人 87.2% (厚生労働省, 2024)
300〜499人 74.1% (厚生労働省, 2024)
100〜299人 55.3% (厚生労働省, 2024)
50〜99人 28.2% (厚生労働省, 2024)
30〜49人 16.0% (厚生労働省, 2024)
10〜29人 7.5% (厚生労働省, 2024)

企業の復職支援の実施状況

指標 数値 出典
職場復帰支援プログラム策定済み事業所(全体) 25.1% (厚生労働省, 2024)
同(1,000人以上) 78.4% (厚生労働省, 2024)
同(10〜29人) 21.3% (厚生労働省, 2024)
事業所内相談体制の整備 45.0% (厚生労働省, 2024)
ストレスチェックの実施 65.0% (厚生労働省, 2024)
休職制度等がある企業の割合(上場企業) 98.3% (障害者職業総合センター, 2019)

休職のきっかけ

きっかけ 割合 出典
職場の人間関係 24.3% (レバレジーズ, 2025)
職場内のハラスメント関連 22.8% (レバレジーズ, 2025)
業務量の多さ 22.5% (レバレジーズ, 2025)

休職期間

区分 全体 20代 出典
最多の休職期間 1年以上(34.7%) 1〜3か月未満(43.2%) (レバレジーズ, 2025)
傾向 若い世代ほど短期間、年齢が上がるにつれ長期化 (レバレジーズ, 2025)

休職明けの離職・雇用形態の変化

指標 数値 出典
休職明けに退職した割合(全体) 約50% (レバレジーズ, 2025)
休職明けに退職した割合(20代) 約70%超 (レバレジーズ, 2025)
復職・転職後に正社員として継続 86.9% (レバレジーズ, 2025)
契約社員・パート等へ雇用形態変更 10%以上 (レバレジーズ, 2025)
精神障害者保健福祉手帳を取得 約30% (レバレジーズ, 2025)
手帳取得を検討中 約20% (レバレジーズ, 2025)

復職率(上場企業調査)

指標 数値 出典
休職者全員が復職した企業 11.3% (障害者職業総合センター, 2019)
7〜8割程度復職(最多) 24.1% (障害者職業総合センター, 2019)
復職者がゼロの企業 6.5% (障害者職業総合センター, 2019)

企業の休職者に対する措置

措置内容 実施率 出典
診断書の提出の指示 90.8% (障害者職業総合センター, 2019)
事業場外資源の利用 33.9% (障害者職業総合センター, 2019)

企業の復帰時・復職後の措置(上場企業457社調査)

措置内容 実施率 出典
残業や休日勤務の制限・禁止 67.6% (障害者職業総合センター, 2019)
就業時間の短縮 61.9% (障害者職業総合センター, 2019)
定期的な面談 60.2% (障害者職業総合センター, 2019)
本人の状況に応じた業務内容の調整 53.0% (障害者職業総合センター, 2019)

復職判断の条件(上場企業386社回答)

条件の種類 具体例
復職意思 復職の意思がある(復職願が提出されている)
生活リズム 生活リズムが整っている
意欲・思考の回復 職場復帰に対する意欲、休職原因の振り返り、再発防止策の整理
試し出勤 通勤時間帯に一人で安全に通勤できる、定時勤務ができる
試し勤務 短時間勤務が可能、所定労働時間の就労が継続可能
医師の判断 主治医の復職可診断書、産業医の復職可判断
その他 家族の支援状況、職場の受入体制、復職支援プランの作成

出典:(障害者職業総合センター, 2019)。97.2%の企業が復職判断に条件を設定し、多くの企業で2種類以上の条件を組み合わせている。

復職判断基準の例

労働者が十分な意欲を示している、通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる、決まった勤務日・時間に就労が継続して可能、業務に必要な作業ができる、作業による疲労が翌日までに十分回復する、業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している(厚生労働省, 2009)。

就業上の配慮の例

短時間勤務、軽作業や定型業務への従事、残業・深夜業務の禁止、出張制限、交替勤務制限、危険作業・運転業務・高所作業・窓口業務・苦情処理業務の制限、フレックスタイム制度の制限または適用、転勤についての配慮(厚生労働省, 2009)。

厚生労働省 職場復帰支援の5ステップ

ステップ 内容
第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア
第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断
第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
第4ステップ 最終的な職場復帰の決定
第5ステップ 職場復帰後のフォローアップ

出典:(厚生労働省, 2009)。50人未満の事業場においては衛生推進者または安全衛生推進者が対応する。

試し出勤制度の3形態

形態 内容
模擬出勤 デイケア等で模擬的な軽作業を行う
通勤訓練 自宅から勤務職場の近くまで移動する練習
試し出勤 本来の職場に試験的に一定期間継続して出勤する

出典:(厚生労働省, 2009)。試し出勤は法定制度ではなく、会社が任意に設計できる仕組みである。導入する場合は事業場であらかじめルール化して活用する(労働者健康安全機構, 2019)。

復職後のフォローアップ事例

厚生労働省の手引きの事例では、30代男性営業職が復職後3か月目から1日1時間の残業を許容し、6か月かけて通常勤務に復帰している。月1回の産業医・保健師面接、2週に1回の保健師面接、上司による毎週1回の定期面接が実施された(厚生労働省, 2009)。

復職支援プログラム策定のポイント

  • 職場復帰基準は「完全復帰でない状態としての受け入れを前提とする」(労働者健康安全機構, 2019)
  • 休業労働者だけでなく同僚や管理監督者に対して過度の負担がかからないよう配慮する(労働者健康安全機構, 2019)
  • 家族への支援(理解と協力、必要な情報共有)も重要(労働者健康安全機構, 2019)
  • 処遇・雇用契約の変更が想定される場合は、あらかじめ就業規則等でルール化しておく(労働者健康安全機構, 2019)
  • 職場復帰は元の慣れた職場へ復帰させることが原則。ただし異動等を誘因として発症したケースでは配置転換をした方が良い場合もある(厚生労働省, 2009)

定期面談・定期連絡の効果

定期的な連絡・状況確認・相談は復職者調査で「役に立った」という回答が得られており、先行研究でも再休職防止や職場再適応に効果があることが示されている(障害者職業総合センター, 2019)。

定期的な面談は社員の不安な気持ちの解消、自身の状態の客観的な把握、早期の問題解決に効果があり、先行研究でも再休職防止や職場再適応に効果がある(障害者職業総合センター, 2019)。

再休職に至る認知・行動の特徴(うつ病再休職者8名の質的研究)

カテゴリ 特徴 具体的内容
認知 理想の自分像への執着 期待への強い責任、職業人への高い理想、比較志向性の高さと極端な過小評価
認知 納得できるストーリー探し うまくいかない原因を自分に求める、うつ病再発の予測に確信をもつ
行動 仕事の抱え込み 残業・持ち帰り仕事を増やす、休憩時間を減らす、一人で仕事をする
行動 我慢 言いたいことを言わない、大丈夫なフリをする
行動 反すう 過去の失敗・将来への不安・自己の否定的側面を繰り返し考え続ける

出典:(新田ら, 2024)。再休職者に特有のパターンは「比較志向性の高さと極端な過小評価」および「反すう」であり、初回休職者には見られない特徴である。再休職予防のためには、①職場において客観的で正しい評価を得ること、②反すうへの対処を獲得することが重要とされる。

再休職に関連する個人・環境要因

要因 内容 出典
家族関係 復職成功群は家族との関係が良好と評価する患者が多い (堀ら, 2013)
婚姻・居住状況 未婚者・単身生活者は再休職までの期間が短い (中川・井原, 2016)
他罰傾向 他罰傾向のある患者は再休職までの期間が短い (中川・井原, 2016)
対人葛藤 再休職者は初回休職者と比較して職場での対人葛藤ストレスが有意に強い (中村, 2015)

中小企業向けリソース

リソース 内容 対象 費用
地域産業保健センター(地さんぽ) 産業保健サービスの提供 50人未満の事業場 無料
産業保健総合支援センター メンタルヘルス対策促進員による事業場への訪問支援 全事業場 無料
こころの耳 eラーニング 「15分でわかる職場復帰支援」 全事業場 無料
ELECTRIC DOC. 復職支援マニュアル・チェックリスト・生活記録表 産業医未選任の中小規模事業所 無料(PDF)

出典:(こころの耳/厚生労働省)(労働者健康安全機構, 2019)(ELECTRIC DOC.)。専門スタッフがいない中小企業には事業場外資源の支援内容に関する情報が十分に行き届いていない可能性があり、より一層の周知が必要とされる(障害者職業総合センター, 2019)。

分析と含意(Analysis & Implications)

専門キーワード: 心理的安全性、認知の歪み、情緒的消耗感、反すう、比較志向性、学習性無力感、安全配慮義務、三次予防、プレゼンティズム、痛みへの鈍麻、過剰適応

軸A: メカニズム分析 — なぜ再休職は起きるか

「復職可能」と「就業可能」のギャップ

主治医が出す「復職可能」の判断は、日常生活レベルでの回復を基準としている。しかし、職場で求められる業務遂行能力——注意力の持続、対人折衝のストレス耐性、突発的な業務への対応力——まで回復しているとは限らない(厚生労働省, 2009)。このギャップを組織が認識していなければ、復職初日から以前のペースを期待することになり、復職者は期待に応えようと無理をする。これが再休職への入口となる。

30年間の組織経験から言えば、このギャップは「知らない」のではなく「見ないふりをしている」ケースが少なくない。現場は半年間の欠員を埋め続けてきた。一日も早く戦力に戻したいという圧力は、善意の管理職であっても抗いがたい。問題は個人の判断力ではなく、段階的復帰を制度として保証する仕組みの不在にある。

再休職者に特有の認知・行動パターン

新田ら(2024)の研究が明らかにしたのは、再休職に至る人々に共通する認知と行動のパターンである。中でも注目すべきは、「比較志向性の高さと極端な過小評価」と「反すう」が再休職者に特有であり、初回休職者には見られないという点である。

「以前のように働けるはずだ」「周囲に迷惑をかけている」という認知は、仕事の抱え込みや我慢——「大丈夫なフリ」——という行動に直結する。そしてこの行動は、感情・身体への悪影響を通じて悪循環を形成する。

ここで見落とされがちなのは、「大丈夫なフリ」が本人にとっても自覚的でない場合があるという点である。かつて月200時間残業を「辛くなかった」と振り返った経験から言えば、人は痛みに鈍麻する。自分が無理をしていることに気づけない状態は、チェックシートに「問題なし」と記入する形で現れる。定期面談で「調子はどうですか」と聞いて「大丈夫です」と返ってくるとき、その回答の信頼性は額面通りに受け取れない。面談の設計には、この鈍麻への対処が組み込まれていなければならない。

対人葛藤と職場環境

再休職者は初回休職者と比較して職場での対人葛藤ストレスが有意に強い(中村, 2015)。これは休職のきっかけとして「職場の人間関係(24.3%)」「ハラスメント(22.8%)」が上位を占める(レバレジーズ, 2025)ことと整合する。復職先が元の職場である場合、休職前の対人関係が未解決のまま残っている可能性がある。厚生労働省の手引きが「元の慣れた職場へ復帰させることが原則」としつつ、「異動等を誘因として発症したケースでは配置転換をした方が良い場合もある」と留保しているのは、この対人葛藤リスクを踏まえたものと解釈できる。

再発の連鎖構造

うつ病は再発の度に再発率が大きく上がり、重症化する(新田ら, 2024)。再休職は「また休んだ」という同じ出来事の繰り返しではなく、病態の進行である。リワーク利用者であっても約1年後には20%程度が再休職あるいは失職しているという報告(大木・五十嵐, 2013)は、専門的な復職支援プログラムを経た場合でさえ再休職リスクが残存することを示している。この認識なしに「また様子を見よう」と対応することは、問題の先送りにほかならない。

軸B: 制度・環境分析 — 何が取り巻いているか

制度整備の格差

職場復帰支援プログラムを策定している事業所は全体の25.1%にとどまり、10〜29人規模では21.3%である(厚生労働省, 2024)。一方、1,000人以上の事業所では78.4%が策定済みである。この3倍以上の格差は、中小企業における復職支援が制度ではなく個人の判断に依存していることを意味する。

制度がなければ、人事担当者や管理職は「どこまで配慮すべきか」「いつ通常勤務に戻すか」を自らの裁量で判断せざるを得ない。判断が裏目に出たとき、その担当者が自責に陥る。これは担当者個人のメンタルヘルスリスクでもある。

一般には「中小企業には産業医がいないから復職支援は難しい」と言われるが、現場の実態はやや異なる。産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員は事業場を訪問してプログラム策定を無料で支援する。地域産業保健センターは50人未満の事業場に無料の産業保健サービスを提供する。ELECTRIC DOC.は産業医未選任の中小規模事業所向けに復職支援マニュアルを無料公開している。制度の不在よりも、これらのリソースが知られていないことの方が、実は大きな障壁である。

安全配慮義務の実務的含意

安全配慮義務(労働契約法第5条)は、使用者に対し労働者の生命・身体等の安全を確保する義務を課している。復職者に対する段階的な業務量調整や定期面談は、この義務の具体的な履行形態と位置づけられる。制度化されていなければ、「何を配慮すべきか」が曖昧になり、結果として義務の不履行と評価されるリスクがある。

職場復帰支援プログラムの策定は、安全配慮義務の履行を「見える化」する手段でもある。厚生労働省の手引きの第3ステップ(職場復帰支援プランの作成)を実施し文書化しておくことが、法的リスクの低減と実効性のある復職支援の両立につながる。

外部資源の活用の現状と課題

NIVR調査では上場企業の約3分の1(33.9%)が事業場外資源を活用している(障害者職業総合センター, 2019)。リワーク支援(地域障害者職業センター)、医療機関のリワークプログラム、EAP(従業員支援プログラム)などが含まれる。しかし中小企業には支援内容の情報が十分に行き届いていない。

復職判断においても、上場企業の97.2%が条件を設定し、多くの企業が2種類以上の条件を組み合わせている。復職意思の確認、生活リズムの安定、試し出勤の実施、医師の判断など、複数の視点から復職の可否を判断する体制がある(障害者職業総合センター, 2019)。こうした多角的な判断の枠組みを、中小企業でもスケールダウンして導入することは十分に可能である。

軸C: 影響分析 — 何が起きるか

組織への影響

休職明けに約50%が退職し、20代では70%超が退職する(レバレジーズ, 2025)。復職した場合でも10%以上が契約社員やパートへ雇用形態を変更しており、休職がその後のキャリア形成に長期的な影響を及ぼしている。企業にとって、休職→再休職→退職という連鎖は、採用コスト・育成コストの喪失に加え、業務分担の見直し、周囲への負荷増という組織全体の生産性低下をもたらす。

周囲への波及

厚生労働省の手引きおよび労働者健康安全機構のプログラム策定ガイドが共に、「休業していた労働者だけでなく、同僚や管理監督者に対する過度の負担がかからないよう配慮する」と明記している点は、復職支援が復職者個人の問題ではないことを示している。復職者の業務を半年間カバーしてきたチームメンバーの疲弊は、二次的なメンタルヘルス不調のリスク要因となる。支える側もまた、走り続けている当事者である。

個人要因と環境要因の交差

再休職のリスクは個人要因と環境要因の交差点にある。家族関係が良好な復職者は再休職しにくく(堀ら, 2013)、未婚者・単身生活者は再休職までの期間が短い(中川・井原, 2016)。これらの個人要因は企業が直接介入できる領域ではないが、面談設計において「家庭での支援状況」を確認項目に含めることで、リスクの高い復職者に対してより手厚いフォローアップを行う判断材料にはなりうる。

推奨アクション

フェーズ1: 初期対応(復職決定〜復職日)

  1. 復職支援プランを一枚の文書にまとめる: 復職日、業務内容、勤務時間、面談スケジュール、配慮事項を記載し、本人・上司・人事で共有する。厚生労働省の手引きでは第3ステップに位置づけられている。産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員が策定を無料で支援する
  2. 主治医の「復職可能」の意味を確認する: 日常生活レベルの回復か、業務遂行能力の回復かを区別する。主治医の意見書に基づき、産業医または外部機関の助言を得て業務負荷を設定する
  3. 面談スケジュールを復職初日にカレンダーに入れる: 「調子が悪くなったら面談」ではなく、「決まった日に面談」と最初から決めておく

フェーズ2: 復職後のフォローアップ(復職後〜6か月)

  1. 業務量の段階的調整: 復職後1〜2週は半日勤務・軽作業、3〜4週は6時間勤務・残業なし、2〜3か月でフルタイム(残業なし・業務量7〜8割)、3〜6か月で通常勤務へ段階的に移行する
  2. 定期面談の頻度調整: 復職後1〜3か月は月1回の正式面談+上司による週1回の声かけ、安定期(3〜6か月)は2か月に1回、通常勤務移行後は3か月に1回とする
  3. 面談では具体的な切り口で確認する: ①睡眠(朝の目覚め、入眠困難の有無)、②業務量の負荷感(疲労の翌日残存)、③職場の人間関係、④体調全般、⑤生活リズム(起床時間、食事の摂取状況)
  4. チーム全体への配慮: 復職者を支えるチームの負荷を意識し、業務分担の見直しと周囲のメンタルヘルスケアを並行して行う

立場別の分岐アクション

立場 主な役割 具体的アクション
経営者 方針の提示と制度化 復職支援の方針を社内に示す。試し出勤制度の導入を検討する。産業保健総合支援センターの無料訪問支援を利用する
人事担当者 計画の策定と進捗管理 主治医との連携窓口となる。復職支援プランを策定し面談記録を管理する。ストレスチェックの結果も参考に多角的に把握する。NIVR調査では約3分の1の企業が事業場外資源を活用している
管理職 日常の観察と声かけ 週1回の短い面接を実施する。業務量の調整とチーム全体のバランスを意識する
同僚 普段通りの接し方 特別扱いよりも普段通りの接し方を心がける。自身の負担やストレスにも目を向ける

相談時のフレーズ例

  • 人事→主治医: 「復職後の業務量について、先生のお考えをお聞かせいただけますか。段階的に負荷を増やす計画を立てたいと考えています」
  • 管理職→復職者: 「最近少し疲れているように見えるのですが、業務量について話す時間を取れますか」

リソース案内

公的相談窓口

窓口 連絡先 受付時間
働く人の「こころの耳電話相談」(厚生労働省) 0120-565-455 平日17:00〜22:00、土日10:00〜16:00
よりそいホットライン 0120-279-338 24時間対応
産業保健総合支援センター 全国47か所(各都道府県) 事業場への訪問支援(無料)
地域産業保健センター(地さんぽ) 全国約350か所 50人未満事業場向け産業保健サービス(無料)

無料ツール

  • こころの耳 eラーニング「15分でわかる職場復帰支援」
  • ELECTRIC DOC. 復職支援マニュアル・チェックリスト・生活記録表(PDF無料ダウンロード)

結論

再休職は「起こるかもしれないこと」ではなく「起こりうること」として備えるべきリスクである。47〜54%という再休職率は、個人の意志力や回復度の問題ではなく、復職後の業務環境と組織の支援体制の問題として捉える必要がある。

業務量の段階的調整、定期面談による状態変化の捕捉、再休職の兆候の早期把握——この3つを属人的な判断ではなく制度として組み込むことが、再休職予防の実効性を決定づける。産業医がいない中小企業であっても、産業保健総合支援センターの無料訪問支援を利用して復職支援プログラムを策定することが、最初の一手として最も有効である。

よくある質問(FAQ)

Q: 復職後の再休職率はどのくらいですか?

うつ病休職者の47.1%が5年以内に再休職するという厚生労働省の研究データがある(厚生労働省, 2017)。また、2025年のレバレジーズ社の調査では、復職・転職者の53.7%が再休職を経験しており、再休職までの期間は1年未満が過半数を超える。

Q: 産業医がいない中小企業でも復職支援はできますか?

できる。地域産業保健センター(地さんぽ)は50人未満の事業場に無料で産業保健サービスを提供している。また、産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員が事業場を訪問し、復職支援プログラムの策定を無料で支援する。ELECTRIC DOC.の復職支援マニュアルは産業医未選任の事業所向けに作成されており、無料でダウンロード可能である。

Q: 主治医の「復職可能」は「以前通り働ける」という意味ですか?

異なる。主治医の「復職可能」の判断は、日常生活レベルでの回復を基準としていることが多く、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとは限らない(厚生労働省, 2009)。復職後は段階的な業務量調整が必要であり、厚生労働省の手引きでは半年単位での通常勤務復帰を想定している。

Q: 復職後の面談では何を聞けばよいですか?

「調子はどうですか」という抽象的な質問ではなく、具体的な切り口で確認する。確認すべき項目は、①睡眠(朝の目覚め、入眠困難の有無)、②業務量の負荷感(疲労の翌日残存)、③職場の人間関係、④体調全般、⑤生活リズム(起床時間、食事の摂取状況)である。再休職者は「大丈夫なフリ」をする傾向があるため(新田ら, 2024)、直接的な自己申告だけに頼らない設計が求められる。

Q: 再休職の兆候にはどのようなものがありますか?

観察可能な兆候として、遅刻・早退の増加、昼食を取らない・一人で過ごす時間の増加、業務のミスや集中力の低下、表情の乏しさ、声のトーンの低下、急な体重変化、残業の急増(仕事の抱え込み)、「大丈夫です」の繰り返し(我慢の兆候)がある。一つひとつは小さな変化でも、複数が重なった場合は注意が必要である。

出典・参考文献

公的機関資料

調査報告

学術論文

  • 新田真由美・根本友見・岡田佳詠(2024)「職場復帰後に再休職に至ったうつ病をもつ人の認知・行動の特徴」日本看護科学会誌, 44, 702-711. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/44/0/44_44702/_html/-char/ja
  • 大木・五十嵐(2013)リワーク利用者の復職後転帰に関する報告
  • 堀ら(2013)復職成功群の家族関係に関する研究
  • 中川・井原(2016)再休職までの期間に関連する要因の研究
  • 中村(2015)再休職者の対人葛藤ストレスに関する研究

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執筆者プロフィール

江原和比己(えはら かずひこ)

産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)。かずな総合研究所代表。約25年の会社員生活を経て2018年に独立。ITエンジニアとしての論理的思考と、EAP(従業員支援プログラム)の相談現場で培った実務知見を融合し、中小企業のメンタルヘルス対策を支援している。自身も20代に月200〜250時間の残業を経験し、痛みへの鈍麻を後年自覚した原体験を持つ。「止まってもいい。何度でも歩き出せば、その一歩が未来を変える。」を実践哲学とし、SFBTを基盤とするブリーフコーチングで企業と働く人の伴走を行う。

本文書は一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療に関する助言に代わるものではありません。症状が深刻な場合は、医療機関への受診をお勧めします。記載されたデータは各出典の公開時点のものであり、最新の情報については各機関の公式サイトをご確認ください。