Briefing Note

梅雨の運動不足と「雨だからゼロ」——働く人の動線に小さな身体活動を取り戻す実務指針

梅雨の運動不足を、働く人の一日の動線に沿って解く実務指針。在宅勤務で歩数が約6割減る公的データを土台に、「雨だから動けない」を「雨でもこれくらい」に変える段階設計と、自助と受診の交通整理を産業カウンセラーの視点で整理する。

エグゼクティブサマリー

梅雨の運動不足は、本人の意志の問題ではなく、雨と在宅勤務によって「歩く機会」が動線から構造的に消えることで起きる。在宅勤務日は職場勤務日に比べ歩数が1日あたり平均4,792歩(59.2%)減少し、調査対象のおよそ92%でこの低下が確認されている(厚生労働科学研究, 2024)。本稿の独自性は、この身体活動低下を気象病の生理機序からではなく、産業カウンセラーとして「働く人の一日の動線」と「0か100かの思考」から捉え直し、雨天最小運動の原則として段階的な行動設計に落とし込む点にある。放置すれば座位時間の延長が集中力・生産性・気分に波及し、対処すれば雨天下でも身体活動を「細くつなぐ」ことで、晴天時の再開コストを下げられる。本稿は公的な身体活動データと制度を、産業カウンセラーの行動設計の視点で統合したものである。

定義と現状認識

「梅雨だる」「気象病」は正式な医学用語ではなく、気圧・温度・湿度の変化に伴う不調を指す暮らしの中の呼称である(sazanami, 2025)。本稿が扱うのは、その生理機序ではなく、梅雨期に生じる行動レベルの変化、すなわち身体活動の低下である。

梅雨期の運動不足とは、降雨と在宅勤務の常態化により、通勤・外出・社内移動といった「無意識の身体活動」の機会が日常の動線から失われ、座位時間が延長し1日の歩数が大幅に減少した状態を指す。

この状態は、特定の場面で典型的に現れる。

  • 在宅勤務で通勤がなくなり、移動範囲が「デスク・トイレ・冷蔵庫」に縮小する(コクヨ ワークスタイル, 2021)。
  • 雨天により「濡れる・傘が面倒」を理由に散歩や外出をやめ、一度やめると再開のきっかけがつかめなくなる。
  • 夕方に体が重く、頭がぼんやりしたまま残りの業務に向かうが、「梅雨だから」で流している。

自身の状況は、次の項目で客観的に判定できる。

  • 在宅勤務の日に、外出の用事がなく1日が終わることが週に複数回ある。
  • 1日の歩数が3,000歩前後、またはそれを下回る日がある。
  • 連続して30分以上座り続けたまま立ち上がらない時間帯がある。
  • 雨が続くと、晴れの日も含めて身体を動かす量が目に見えて減る。
  • 「きちんとやらないと意味がない」と考え、結果として何もしない日が増える。

データとエビデンス

公的データは、梅雨期の不調の広がりと、在宅勤務下の身体活動低下を明確に示している。以下、解釈を加えず事実として整理する。

梅雨期の不調の広がり

項目 数値 出典
梅雨の時期に体調不良を感じたことがある人 約48%(約2人に1人) 大研バイオメディカル, 2024
梅雨時に感じる不調のトップ3 倦怠感(だるさ)・頭痛・気分の落ち込み 大研バイオメディカル, 2024
気象関連の不調を最も感じる月 6月(17.0%)・11月(16.0%)が突出 ツムラ, 2025
「なんとなく不調」に何も対処していない人 42.2% ツムラ, 2025

ここで着目すべきは、不調を感じる人の約4割が何も対処していないことである。この「対処の空白」が何によって生じるかは、後段の「分析と含意」で扱う。

在宅勤務・テレワーク下の歩数の減少

項目 数値 出典
在宅勤務日の歩数減少(職場勤務日との同一個人内比較) 1日あたり平均4,792歩・59.2%減 厚生労働科学研究, 2024
在宅勤務時の歩数低下が確認された労働者の割合 約92% 厚生労働科学研究, 2024
職場勤務日/在宅勤務日の平均歩数 8,046歩/3,284歩 厚生労働科学研究, 2024
週5日以上テレワークする人の1日平均歩数 約3,194歩(テレワークなしは7,214歩) 厚生労働科学研究, 2024
在宅勤務導入による歩数減少(筑波大学×タニタ調査) 平均約29%減(約11,500歩の集団) 日本生活習慣病予防協会, 2021

着目すべきは、在宅勤務時の歩数低下が92%という大多数で生じている点である。これが個人の資質ではなく構造的な現象であることを示唆しており、この構造も次章で分析する。

身体活動の構成比と座位時間

項目 数値 出典
職場勤務時の座位行動の割合 72.8% 厚生労働科学研究, 2024
在宅勤務時の座位行動の割合 79.4%(座位が約8%増加) 厚生労働科学研究, 2024
平日1日の総座位時間が8時間以上の人 男性38%・女性33% 厚生労働省, 2024
日本人の総座位時間 世界20か国比較で最長水準 厚生労働省, 2024

身体活動の制度的な目安(健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)

項目 数値・内容 出典
成人の歩数目安 1日約8,000歩以上(3メッツ以上を1日60分以上) 厚生労働省, 2024
令和元年の歩数の全体平均 6,278歩(20〜64歳男性7,864歩・女性6,685歩) 厚生労働省, 2024
推奨される行動変容 今より「10分多く動く」=+10(プラス・テン) 厚生労働省, 2024
座位行動への推奨 30分ごとに一度立ち上がり、座りっぱなしを中断する 厚生労働省, 2024
+1,000歩の効果 約10分の歩行に相当。生活習慣病の発症・死亡リスクが約3%低下 厚生労働科学研究, 2024

テレワークをする人の歩数(約3,194歩)と成人の目安(8,000歩)の間には約5,000歩の隔たりがある。ガイドはこの隔たりを一足飛びに埋めることではなく、「+1,000歩(約10分)」から始めることを現実的な入り口として示している。

分析と含意

ここからは、前章のデータが働く人にとって何を意味するかを、産業カウンセラーの視点で解釈する。専門キーワードとして、構造的機会の喪失、全か無か思考(all-or-nothing thinking)、行動活性化、自己効力感、同調圧力、行動の最小単位を軸に置く。

なぜ梅雨期に身体活動が落ちるのか(行動・心理メカニズム)

気圧や自律神経の生理的な機序は、産業カウンセラーの専門領域ではない。ここで扱うのは、その手前にある行動と心理の機序である。

まず挙げられるのは、構造的な機会の喪失である。職場勤務では、駅までの徒歩、階段の上り下り、昼食時の外出、社内移動といった「無意識の運動」が一日の活動量の大半を稼いでいた。在宅勤務になると、この機会がまるごと消える。歩数が92%もの人で減少するのは(厚生労働科学研究, 2024)、やる気の欠如ではなく、歩く機会が動線から構造的に失われたためである。梅雨はこれに「雨だから外に出ない」という要因を上乗せし、機会の喪失をさらに深める。

次に、全か無か思考がある。「きちんと運動しなければ意味がない」「毎日30分歩けないなら無駄だ」という思考は、できなかった日の自責を生み、行動を「ゼロ」に固定する。ツムラ(2025)の調査で約4割が何も対処していないという「対処の空白」も、対処のハードルを高く設定しすぎることと無縁ではない。一般には「運動の量や強度を増やすこと」が推奨されるが、現場で動けなくしているのは、しばしば量の不足ではなく「これくらいでいい」という基準の不在である。

もう一つが、再開コストの非対称性である。身体活動はいったん完全に止めると、再び始めるときに余計な心理的・身体的な力を要する。雨が上がっても再開のきっかけがつかめないという感覚は、ここに由来する。したがって、雨天時に重要なのは「いつもと同じ量を維持する」ことではなく、「ゼロにしない」ことである。細くでも活動を残しておけば、晴天時の再開は格段に容易になる。

これらを束ねるのが、本稿が提示する枠組みである。

雨天最小運動の原則とは、梅雨期の身体活動で「完全に止めないこと」を量や強度の維持より優先する行動設計を指す。雨で歩く場所が消える日でも、屋内で実行できる最小単位の動き(窓際で身体を動かす、その場で足踏み、座位の中断)を一つ残すことで、晴天時の再開コストを下げ、身体活動を細く連続させる。

この原則は、「0か100か」を「0か、せめて10か」に置き換える発想である。1,000歩(約10分)という+10の目安(厚生労働省, 2024)は、まさにこの「せめて10」の制度的な裏づけとして機能する。

働く人の身体活動を取り巻く制度と環境

働く人の身体活動は、個人の努力だけでは規定できない環境要因に強く支配されている。

制度面では、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年改訂)が、成人の目安として1日約8,000歩、+10(今より10分多く動く)、座位行動を30分ごとに中断することを示している(厚生労働省, 2024)。テレワーク向けには、まず「+1,000歩」から始める段階的な入り口が示されている(厚生労働科学研究, 2024)。これらは、雨天時の行動設計をそのまま支える制度的な根拠である。

環境面では、在宅勤務という働き方の変化が活動量の前提を変えた。東京のテレワーカー割合は2019年の24%から2020年に64%へ増加し、2023年末時点でも東京の職場の46.1%が在宅勤務を実施している(厚生労働科学研究, 2024)。在宅勤務という環境が常態化した以上、消えた歩く機会を個人の意志で補うのではなく、動線の側に小さく作り直す設計が必要になる。

同調圧力も無視できない環境要因である。職場で活動的に過ごそうとしても、共通認識がなければ「仕事をさぼっている」と受け取られかねない(厚生労働省, 2024)。身体活動を職場文化に組み込むには、個人の工夫と組織の理解の両方が要る。

放置した場合に健康と業務に何が起きるか

座位時間の延長と身体活動の低下は、健康と業務の双方に影響する。

座位行動の延長は、食後血糖値・中性脂肪・インスリン抵抗性などのリスクを高め、身体活動不足と長い座位時間は腰痛・肩こり・頭痛につながり、労働生産性にも影響しうる(厚生労働省, 2024)。一方で、介入の効果も定量的に示されている。オフィス労働者への多要素プログラムでは1日あたり中高強度身体活動が7.3分・歩数が873歩有意に増加し、リモート勤務日でも歩数が826歩増加した(厚生労働省, 2024)。日本人労働者490人への1日1万歩を目標とした歩行介入では睡眠の質が改善し、特に運動習慣のない集団で効果が大きかった(厚生労働省, 2024)。

ここで指摘すべきデータの限界がある。歩数や活動量の統計は「動いていない事実」は捉えるが、「動けなくなっている構造」や「動かないことが集中力にどう波及しているか」までは捉えない。本人が「梅雨だから」と流している間に進行する集中力やパフォーマンスの低下は、チェックシートには現れにくい。だからこそ、数値の達成を急ぐより、まず「細くつなぐ」行動を一つ残すことが、影響を食い止める現実的な一手になる。

なお、身体活動が気分やメンタルヘルスに資するという研究知見は広く報告されているが(COMHBO地域精神保健福祉機構, 2016)、その臨床的な効果や回復のプロセスは医療の領域である。本稿はあくまで、行動を後押しする一般的な根拠としてこれに触れるにとどめ、診断や治療の指針としては扱わない。

推奨アクション

行動設計は、量の達成ではなく「ゼロにしない」ことを起点に、段階的に組み立てる。

フェーズ1(最小単位の確保)では、雨でも実行できる最小の動きを一つ決める。朝、カーテンを開けて窓際で伸びをする。曇りや雨でも屋外の光は思うより明るい。所要は数分でよい。この段階の目的は運動量ではなく、「雨でもこれくらいなら動ける」という基準を一つ持つことにある。

フェーズ2(座位の中断)では、30分に一度を目安に立ち上がる(厚生労働省, 2024)。お茶を入れる、その場で足踏みをする、窓を開けて雨の音を聞く。家の中の数歩でも、座りっぱなしの連続を区切ることに意味がある。

フェーズ3(動線への上乗せ)では、慣れてきたら、いつもの動線に「+10分・+1,000歩」を上乗せする(厚生労働科学研究, 2024)。一駅手前で降りて屋根のある通路を歩く、エレベーターをやめて階段を使う、昼休みに社内をひと回りする。雨に濡れずまとまった歩数を確保する手段として、デパートやショッピングモール、地下街を歩く方法も挙げられている(社会医療法人社団 健生会, 2016)。

立場によって、取るべき一手は分かれる。本人は「全部やる」ではなく「一つだけ残す」を選ぶ。在宅中心なら座位の中断から、出社と在宅が混じるなら雨でも歩ける動線(屋根のある通路・駅ナカ)を一つ決めておく。管理職・人事は、身体活動を個人の自助に委ねず、座位の中断や立ち会議を「さぼり」と見なさない共通認識を職場に置く。組織のリーダーが率先して動くことで、体を動かしやすい雰囲気が醸成される(厚生労働省, 2024)。

なお、体調が揺らぎやすい時期にハードな運動を詰め込むことは推奨されない。運動習慣のない人が急に強い運動を行うとケガのリスクがあり、強度や量は少しずつ増やす(厚生労働省, 2024)。「物足りないくらい」でやめておくことが、継続の条件である。

リソース案内

働く人本人が、まず頼れる公的窓口を案内する。

  • 働く人の「こころの耳電話相談」(厚生労働省)は、仕事上の悩みやストレス、メンタルヘルスに関する相談に対応する。0120-565-455(平日17:00〜22:00、土日10:00〜16:00)。
  • よりそいホットラインは、生活全般の困りごとに幅広く対応する。0120-279-338(24時間対応)。

行動を記録するための準備として、歩数や「立ち上がった回数」を簡単に記録できる手段(スマートフォンの歩数計、手帳など)を一つ用意しておくと、取り組みが目に見えて続けやすくなる。

結論

梅雨期の運動不足は、雨と在宅勤務が動線から「歩く機会」を構造的に奪うことで生じる現象であり、本人の意志の弱さに帰すべき問題ではない。在宅勤務日に歩数が約6割減り、その低下が92%もの人で生じている事実(厚生労働科学研究, 2024)が、これを裏づける。したがって対策の起点も「やる気を出す」ことではなく、雨天最小運動の原則——完全に止めず、最小単位の動きを一つ残すこと——に置くべきである。読者が最初に取るべき一手は、明日の朝、窓際で一度だけ伸びをすることである。量ではなく連続性を守るその一歩が、梅雨が明けたときの再開を確実に軽くする。

なお、身体の重さや気分の落ち込みが2週間以上続く、あるいは日常生活に支障をきたす場合は、「梅雨だから」と我慢を続けるのではなく、その不調の背景に別の要因が隠れている可能性も含め、医療機関や相談窓口に相談することが望ましい。自助の工夫と専門家への相談は、対立するものではなく、状態に応じて使い分けるべき選択肢である。

よくある質問

Q. 在宅勤務だと、なぜこれほど歩かなくなるのか。

通勤・社内移動・昼食の外出といった「無意識の運動」が動線からまるごと消えるためである。在宅勤務日は職場勤務日より歩数が平均4,792歩(59.2%)少なく、約92%の人でこの低下が確認されている(厚生労働科学研究, 2024)。これは個人のやる気の問題ではなく、歩く機会が構造的に失われた結果であり、対策も意志ではなく動線の作り直しに向ける必要がある。

Q. 雨で何日も動けない日が続いた。もう手遅れか。

手遅れということはない。重要なのは量を取り戻すことより、雨天最小運動の原則に従って「次の一日にまた小さく戻る」ことである。身体活動はいったん完全に止めると再開に余計な力を要するが、窓際で伸びをする・家の中を数歩歩くといった最小単位からなら、いつでもつなぎ直せる。ゼロが続いた後ほど、元の量に戻そうとせず最小単位から再開するのが現実的である。

Q. これくらいの小さな運動に、本当に意味があるのか。

意味がある。厚生労働省は「少しの運動でも、全く運動しないよりはずっと良い」とし、今より10分多く動く+10を推奨している(厚生労働省, 2024)。本稿の目的は「しっかり運動する」ことではなく、雨の日に完全に止めないことにある。細くつないでおけば晴天時の再開が容易になり、+1,000歩(約10分)でも生活習慣病の発症・死亡リスクが約3%低下するという報告もある(厚生労働科学研究, 2024)。

Q. 体の重さが、梅雨や運動不足だけのせいではない気もする。

その感覚は重視すべきである。本稿が扱うのは「雨だから動けない」という行動の問題までであり、気分の落ち込みが2週間以上続く、または日常生活に支障をきたす場合は、産業カウンセラーの領域ではなく医療の領域である。倦怠感の背景に別の不調が隠れていることもあるため、「梅雨だから」で我慢を続けず、医療機関や相談窓口を頼ることが望ましい。

出典・参考文献

公的機関資料

調査・専門資料

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執筆者プロフィール

江原和比己(えはら かずひこ)

産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表・メンタルヘルス企業 取締役

約25年の会社員生活でエンジニアとして論理的思考を培った後、産業カウンセラーとして働く人の支援に携わる。20代に月200時間を超える残業を「辛くない」と感じていた当事者として、痛みへの鈍麻という自身の経験を持つ。40代でランニングを始め、当初は5kmも走れなかったところから100kmマラソンの完走に至った経験から、「完全に止めず、手段を変えてでも一歩ずつ前に進む」という物の見方を得てきた。本稿の「雨でも完全には止めない」という行動設計は、この実体験に根ざしている。教えるのではなく、選択肢を示して共に考える伴走者として、無理なく長く働き続けられる状態づくりを支援している。

本文書は一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療に関する助言に代わるものではありません。症状が深刻な場合は、医療機関への受診をお勧めします。記載されたデータは各出典の公開時点のものであり、最新の情報については各機関の公式サイトをご確認ください。