ニュースの見出しでAIが人の仕事をするようになったと知ったときや、AIを使いこなす同僚を見たときに、働く人の心には「自分の仕事も、いずれAIに置き換えられるかもしれない」という考えが浮かぶことがあります。仕事は生活の土台だからこそ、この不安は無理もないものです。
ただ、不安の中身をよく見ると、実際に起きていることと、まだ起きていない先の予測が、ひとつに重なっていることがあります。分けて書き出してみると、次にできることが見えてきます。
「奪われる」という言葉の中身を見てみる
生成AIを使ったことがある人の割合は、この1年で26.7%から58.8%に増えました。一方、同じ調査で「自分の仕事がAIに代替され、職を失う」と思うかを尋ねたところ、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人は合わせて40.0%でした。
前年度の35.2%からは上がっているものの、利用の増え方ほどには増えていません。単純な作業をAIに任せられるなど他の項目と比べても、低い割合にとどまっています。
「奪われる」という言葉には、こうした起きている変化と、「だからこの先自分の仕事もなくなるかもしれない」というまだ起きていない予測が、ひとつに重なっていることがよくあります。
事実と予測を書き分ける — コラム法
紙でもスマートフォンのメモでも構いません。頭に浮かんだ考えを事実と予測に分けて書き出す、認知行動療法のコラム法という方法があります。厚生労働省こころの健康科学研究事業の資料で紹介されている手順のうち、中心となる4つを順番に書き出します。
まず、何が起きたかという状況を書きます。次に、そのとき頭に浮かんだ考え、自動思考と呼ばれるものを書きます。そして、その考えを裏づける根拠と、その考えに反する反証を書き出します。最後に、両方を「しかし」でつないで、バランス思考と呼ばれる整理された考えと、次にできる小さなプランを書きます。
ニュースや同僚の話で、不安がわいたとき
たとえば、AIが人の仕事をするようになった、というニュースを見た場面を考えます。頭に浮かぶ自動思考は「自分の仕事もいずれなくなるかもしれない」というものです。根拠を探すと、確かにAIの利用は増えています。ただ反証を探すと、今のところ、自分の仕事の中身や進め方には、具体的に変わったことは何もありません。
根拠と反証を「しかし」でつなぐと、「AIの利用は増えている。しかし、自分の仕事は今のところ何も変わっていない」というバランス思考になります。この先どうなるかという予測は、考え続けても答えは出ないので、プランは自分の中でいったん区切りをつけることです。
実際に自分の仕事の一部が変わり始めたとき
一方、自分の仕事の一部にAIツールが導入された場面ではどうでしょうか。頭に浮かぶ自動思考は「この調子で自分の仕事も全部なくなるかもしれない」というものです。根拠を探すと、確かに一つの作業はAIに置き換わりました。ただ反証を探すと、状況の判断や相手との調整は、今も自分が担っています。
同じように「しかし」でつなぐと、「一つの作業はAIに置き換わった。しかし、状況の判断や相手との調整は今も自分の仕事だ」というバランス思考になります。この場面のプランは、区切りをつけることではなく、今のうちにAIと役割分担する形を自分から試してみる、という小さな一歩になります。
同じ4つの手順でも、場面によって最後に書くプランは変わります。この2つの例のように、答えの出ない問いには区切りをつけ、今できることには小さな一歩を選ぶ、という形になることが多いです。
すでに部署の縮小や異動が決まっているなど、予測ではなく現実として進んでいるときは、ここで紹介した4つだけでは足りません。次にすべきことは、今の不安への対処ではなく、進路そのものの選び方になります。
書き出したら、小さな一歩を選ぶ
書き出したこの4つを見返すだけで、頭の中だけで堂々巡りしていたときより、次に何をすればいいかがはっきりします。答えの出ない問いをいつまでも考え続ける必要はなく、区切りをつけてよいのだと分かるだけでも、気持ちは軽くなります。反対に、今の自分にできることが見つかったら、大きく構えず、まず一つだけ試してみることです。
ひとりで根拠や反証がうまく思いつかないときや、書き出しても不安が消えないときは、無理に一人で抱えず、家族でも同僚でも、誰かに話してみるのも一つの方法です。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。