会議で若手が生成AIを使ってあっという間に資料をまとめる場面を見て、自分の仕事の進め方が急に古くなったように感じた。そんな経験があるなら、まず知っておいてほしいことがあります。
「若手の方がAIを使いこなしている」という感覚には、無理のない理由があります。ただ、この感覚だけを頼りに自分を評価すると、必要以上につらくなることがあります。
「使いこなしている」という言葉の中身を見てみる
総務省の情報通信白書によると、生成AIサービスを「使っている(過去使ったことがある)」と答えた人の割合は、年代が上がるにつれて低くなっています。20代は78.2%、30代は56.3%、40代は49.0%、50代は44.2%、60代は33.5%でした。
確かに、若い世代ほど生成AIに触れた経験がある人は多いです。ただ、この数字が示しているのは「使ったことがあるかどうか」であり、「仕事で使いこなせているかどうか」ではありません。
目の前の若手が本当に自分より仕事でうまくAIを使えているのか、それとも使ったことがあるだけなのかは、一概には言えません。
比較が焦りを生む仕組み
心理学には、自分をほかの人と比べることで自己評価を形づくる、社会的比較という考え方があります。自分より優れていると感じる相手と比べる「上方比較」には、2つの効果があることが知られています。
対比効果
- 相手との差を意識する。
- 自己評価が下がる。
同化効果
- 相手と自分を重ね合わせる。
- 刺激を受けて自己評価が上がる。
一つは対比効果と呼ばれ、比べた相手との差を意識して自己評価が下がります。もう一つは同化効果と呼ばれ、比べた相手と自分を重ね合わせることで、逆に刺激を受けて自己評価が上がります。
高田利武氏の研究レビューによると、比較相手のように「自分にもできる」と思えるかどうかが、どちらの効果が働くかを分ける手がかりの一つです。相手を自分と重ね合わせられたときに、上方比較は前向きな感情につながりやすいとされています。ただし、この研究レビュー自身が、どちらの効果が実際に生じるかは研究によって結果が一致していない、とも述べています。
比較から何を持ち帰るかは選べる
若手のAIの使い方を見て焦りを感じるとき、その焦りを無理に打ち消そうとしなくて大丈夫です。
若手の使い方を、自分には関係ない話として片づけていると、差を意識するだけで終わりやすくなります。一方で、その使い方の中から一つでも自分の仕事に持ち帰れる部分を探すと、比較は自分を追い詰める理由ではなく、自分を前に進める力になりやすくなります。
「使ったことがある」という数字と、「仕事で使いこなせている」という手応えは別の問いでした。若手との差を感じたときに問い直せるのは、相手がAIを使ったことがあるかどうかではなく、自分がその使い方から何を一つ持ち帰れるか、です。
若手に教わることへの気まずさとの向き合い方
持ち帰りたいことがあっても、若手や部下に使い方を聞こうとして、抵抗を感じた。自分から質問したら頼りなく見られるのではないか、と不安がよぎった。そんな経験があるなら、相手がどう感じるかは分かりませんが、聞かない限り、この不安と付き合い続けることになります。
一人で追いつこうとして手応えがないなら、やり方を変えて、若手に直接聞いてみることです。何もかも聞く必要はなく、今の自分の仕事に関わる一つのやり方だけで十分です。
聞き方に迷うときは、若手が出した答えそのものより、AIにどう指示を出したのかを尋ねる、という聞き方もあります。
気まずさが消えるのを待ってから聞こうとすると、聞く機会はなかなか訪れません。気まずさを消してから聞こうとするより、聞いたあとに任せるほうが、うまくいく場合があります。小さく一つ聞いてみることが、焦りから抜け出す最初の一歩になります。
※ 出典: 総務省「令和8年版情報通信白書」個人における生成AIサービスの利用実態、高田利武「社会的比較の発達過程に就いて―青年期から老人期に至る実証的知見の展望―」(宮城学院女子大学研究論文集112号, 2011年)。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。