一日じゅうスマホを手にしていて、休日が終わるころには何をして過ごしたのか思い出せない。そんな週末を繰り返している働く人には、意志の弱さを疑う前に、できることがあります。
休日にスマホを手放せないのは、意志の弱さではない
スマホの通知は、いつ・どんな内容が届くか予測できません。仕事の連絡かもしれないし、家族からの一言かもしれないし、何も届かないかもしれない。いつ届くか分からない、その一点が、通知を確認する行動を習慣として強く定着させる仕組みだと、心理学では説明されています。
OpenStaxの心理学の教科書は、報酬が得られるタイミングが予測できない仕組みを「変動比率スケジュール」と呼んでいます。数ある強化のパターンの中でもっとも行動を定着させやすく、いったん身についた行動をやめさせにくい仕組みだと説明されています。
ギャンブルがやめにくいのも、同じ仕組みによるものです。同書は、次はいつ当たるか分からないからこそ、つい試し続けてしまうのだと説明しています。
Frontiers in Psychologyという学術誌に発表された研究は、スマホの通知を受け取ったときの反応も、この仕組みで説明できるとしています。通知が来るたびに、期待外れのこともあれば、思いがけず嬉しい知らせのこともある。この不確かさが、通知を確認する行動を習慣として定着させます。
「またスマホを見てしまった」と感じるのは、意志が弱いからではなく、次の図のような仕組みに従って動いているからです。
通知チェックが習慣になる仕組み
いつ来るか分からない通知
仕事か、家族か、何もないか予測できない。
つい確認する
気になって、手が動いてしまう。
ときどき嬉しい知らせがある
たまの当たりが、次への期待を強める。
通知を消しても触ってしまうのは、きっかけが1つではないから
通知をオフにしたのに、手が空くとつい無意識にスマホを触ってしまう。そんな経験がある働く人は、対策が足りないのではなく、習慣が始まるきっかけが通知だけではないことに理由があります。
トロムソ大学とデューク大学の研究者による論文は、習慣は直前の行動の流れ、時間帯や場所といった環境、そのときの気分、一緒にいる相手など、いくつもの種類のきっかけによって引き起こされると説明しています。
通知という1つのきっかけを取り除いても、「休日の午前中」「ソファに座った」「手持ち無沙汰」といったほかのきっかけが残っていれば、スマホを触る動きはそのまま続きます。食後にソファでくつろいだ瞬間や、テレビのCM中に手が空いた瞬間も、同じように働くきっかけです。
通知オフだけで変わらなかったとしても、それはきっかけが複数あるからです。
完全に手放すのではなく、まとめてチェックする時間を決める
それなら通知を完全に消してしまえばよいかというと、話はそう単純ではありません。デューク大学とジョージタウン大学の研究チームが、237人を対象にした実験を学術誌に発表しています。
参加者を通知の受け取り方が異なる複数のグループに分け、2週間にわたって様子を比較しました。そのうち、通知を1日3回にまとめて受け取ったグループは、いつも通り受け取ったグループと比べて、集中力が高まり、気分が良くなり、ストレスが下がりました。スマホを自分でコントロールできている感覚も強まりました。
ただし、通知をまったく受け取らなかったグループでは、こうした良い結果がほとんど見られませんでした。それどころか、このグループは、ほかのグループより不安や「取り残される感覚」が強くなっていました。効果を生んだのは通知を断つことではなく、まとめて受け取ることでした。両者の違いをまとめると、次のようになります。
通知を完全に断つ
- 良い結果はほとんど見られなかった。
- 不安や「取り残される感覚」が強まった。
1日3回にまとめて受け取る
- 集中力が高まった。
- 気分が良くなった。
- ストレスが下がった。
- スマホを自分でコントロールできている感覚も強まった。
この実験でテストしたのは、アプリ側で通知をまとめて届ける仕組みです。休日に自分で実践するなら、通知をまとめて届く設定にするのがもっとも実験に近いやり方です。
スマホやアプリがその設定に対応していない場合は、朝・昼・夕方など決めた時間だけ自分から見に行くようにすることでも、近い効果が期待できると考えられます。1日中鳴らしっぱなしにするのでも、一切受け取らないようにするのでもない、この中間のやり方が、意志力に頼らない距離の取り方です。
手放せない事情がある人ほど、仕事のことを考えないようにする時間が意味を持つ
家族との連絡、介護、仕事のオンコール対応などで、休日でもスマホを物理的に手放せない働く人もいます。その場合、スマホそのものと距離を取ることは現実的ではありません。物理的に距離を取れなくても、時間帯や手持ち無沙汰といった他のきっかけと同じように、考え方次第で影響を小さくできる部分があります。
こうした事情がある人ほど、スマホを頻繁にチェックする習慣が強くなりがちだと考えられます。オランダのエラスムス・ロッテルダム大学が、業務用スマホを持つ社員69人を対象に、平日5日間の勤務を終えた夜に調査を行いました。その結果、頻繁にチェックする習慣が強い人ほど、意識して仕事のことを考えないようにした日に得られる効果が大きいことがわかりました。
この調査は平日の夜を対象にしたものですが、休日でも同じ発想が使えると考えられます。物理的に手元からスマホをなくせなくても、「今は仕事のことを考えない」と決めて過ごす時間には、意味があります。
もどかしく感じるかもしれませんが、それは状況によるものであって、心の切り替えがうまくできていないせいではありません。
それでも見てしまった自分を責めない
決めた時間以外にもスマホを見てしまった。そんな休日を過ごした働く人が、自分を責めてしまうことがあります。ですが、なぜ見てしまったのかを掘り下げて反省するより、次にどう違うやり方を試すかに気持ちを向けるほうが、次につながります。
自分を責めても、次の休日が良くなるわけではありません。うまくいかなかった回があったとしても、それは今回のやり方が合わなかったというだけのことです。次の休日は確認する時間をもう少し絞ってみる、通知の種類を見直してみるなど、少しだけやり方を変えて試すこと。それが、次の休日につながる一歩になります。
※ 出典: OpenStax "Psychology 2e" 第6.3節(B. F. Skinner, 1953年の記述の引用を含む)、Veissière, S. P. L., & Stendel, M. "Hypernatural Monitoring: A Social Rehearsal Account of Smartphone Addiction." Frontiers in Psychology, 2018年、Verplanken, B., & Wood, W. "Interventions to Break and Create Consumer Habits." Journal of Public Policy & Marketing, 2006年、Fitz, N., Kushlev, K., Jagannathan, R., Lewis, T., Paliwal, D., & Ariely, D. "Batching smartphone notifications can improve well-being." Computers in Human Behavior, 2019年、Derks, D., & Bakker, A. B. "Smartphone Use, Work–Home Interference, and Burnout: A Diary Study on the Role of Recovery." Applied Psychology: An International Review, 2014年。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。