有給休暇を申請しようとして、また理由をうまく用意できずに見送った。そんな経験があるなら、まず知っておいてほしいことがあります。有給休暇は理由を言わなくてよく、会社の承諾も要らない、法律で保障された権利です。
なぜ有給休暇に罪悪感がわくのか
労働政策研究・研修機構の調査では、有給休暇を取り残す理由のうち、周囲への配慮にかかわるものとして「休むと職場の他の人に迷惑になるから」と答えた人が51.7%でした。「周りが有給休暇を取っていないので取りにくい」と答えた人も25.6%います。
この調査が尋ねているのは、休むと迷惑になると思うかどうかという受け止め方であり、実際に迷惑をかけた、実際に評価が下がったという結果ではありません。休む前から、そうなるかもしれないという心配だけで、休暇そのものを控えている人も含まれているかもしれません。
本音では休みたいのに、周りも休んでいないからと一人ひとりが遠慮し合い、誰も言い出せないまま「休まないのが普通」という雰囲気が固定されていくことがあります。この雰囲気の中にいる人の多くが、あなたと同じように休みにくいと感じている可能性があります。この感覚をもっと詳しく知りたいときは、職場で自己主張できないときという記事も参考になります。
「権利だから」では動かない現実に有効な事実
この権利には、法律の裏付けがあります。労働基準法39条は、休暇をいつ取るかを労働者自身が決める権利として定めており、最高裁判所の判例でも、休暇の使い方は労働者が自由に決めてよく、会社の承諾は必要ないとされています。
会社にできるのは、事業の正常な運営を妨げる場合に限って、時季の変更を求めることだけです。休暇そのものを拒む権限はありません。会社が時季の変更を繰り返し、実質的に休めない状態が続くなら、それは例外の範囲を超え、実質的な拒否だと考えられます。
会社側にも、年5日は労働者に有給休暇を取らせる法律上の義務があります。労働基準法39条により、10日以上の有給休暇がある労働者には、会社が時季を指定してでも年5日を取得させなければなりません。ただし、労働者がすでに年5日以上を取得している場合は、この義務はなくなります。人事から有給消化を促されるのは、会社が自分たちの法的な義務を果たそうとしている、という面もあります。
まる1日休むのが難しいなら、時間単位で有給休暇を取れる制度もあります。使うには、会社が労働組合や従業員代表と結ぶ労使協定が必要です。制度の有無は、就業規則か人事担当者に確認できます。制度があれば、こちらも年5日を上限に使えます。
罪悪感を手放すための考え方
罪悪感がどこから来たのかを掘り下げるより、これまでに少しでも休めた場面を思い出すほうが、次の一歩につながります。半日だけ抜けられた日、意外とすんなり通った日はなかったでしょうか。あったなら、そのときの自分の伝え方やタイミングを、次も参考にできます。まだ一度もないなら、それでも大丈夫です。小さく試すところから始めれば十分です。
罪悪感が消えるのを待ってから休もうとすると、その日はなかなか来ません。先に小さく休んでみると、気持ちは後から自然に整ってくることがあります。半日だけ、あるいは1日だけ試しに休んでみる、その小さな一歩が、次に休むときの不安を減らしていきます。
休むことへの気まずさは、責任感が強いことも背景にあります。真面目・責任感が強い人が無理をしてしまう理由では、その責任感がなぜ無理につながるのかを詳しくまとめています。責任感自体を手放す必要はありません。向ける先を変えるだけで十分です。常に自分がいなくても業務が滞らないようにしておくことより、休む前に対応をひとつだけ整理しておくことに、その責任感を使ってみてください。
有給休暇を使いすぎていないか、逆に周りから浮いていないかと、量そのものを気にしてしまう人もいます。もらえる日数の範囲内であれば、休んだ日数が多いこと自体は、制度の上では問題になりません。
伝え方 — 謝らない、短く、理由は「私用」で十分
有給休暇を申請するとき、理由は「私用のため」で十分です。詳しく話す必要はなく、謝る必要もありません。事実だけを短く伝えれば、それで手続きは完了します。
伝え方に迷うときは、事実、自分の受け止め、具体的な提案、代替案の順で話す型が使えます。この型は職場で自己主張できないときという記事で詳しく紹介しています。有給休暇の場面では、事実と対応の2つを短く伝えるだけでも十分です。「◯日に休みをいただきます。△△の対応は前日までに終わらせておきます」というように。
上司の顔色をうかがって、必要以上に低姿勢な言い方をするほど、休むこと自体が周囲から特別な頼み事のように見えてしまいます。淡々と伝えることが、休暇を当たり前の権利として扱う一番の練習になります。
実際に拒否・妨害されたときは、心の持ちようの話ではない
有給休暇を申請するたびに、上司から嫌な顔をされる。それだけで気持ちが沈むのは当然の反応です。ただ、不機嫌な態度を見せられることと、実際に休暇を妨害されることは、分けて考える必要があります。
一度や二度、不機嫌な顔をされた程度では、法的に白黒はつきません。それでも、同じことが繰り返され、休暇を申請するたびに消耗しているなら、違法と言い切れるかどうかを待たずに、労働条件相談ほっとラインのような窓口を使ってかまいません。
上司から繰り返し威圧的に叱責される、大声で追い詰められる、有給休暇を理由に配置転換や不利益な扱いを受ける。これらは心の持ちようで乗り越えられる範囲を超えています。厚生労働省の指針が定めるパワーハラスメントに当たりうるほか、有給休暇の取得を理由にした不利益な扱いは、罰則の有無にかかわらず法的に問題になり得ます。
厚生労働省の労働条件相談ほっとラインは、電話0120-811-610で、匿名でも無料で相談できます。平日は17時から22時、土日祝日は9時から21時まで受け付けています。最寄りの総合労働相談コーナーでも、面談や電話で相談できます。
※ 出典: 労働政策研究・研修機構「年次有給休暇の取得に関するアンケート調査(企業調査・労働者調査)」調査シリーズNo.211・2021年、労働基準法第39条・附則第136条、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2、厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号、厚生労働省「確かめよう労働条件」年次有給休暇、厚生労働省委託事業「労働条件相談ほっとライン」、厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。