「健診の結果に、去年より一段階重い言葉が並んでいた」「階段の踊り場で、思ったより早く息が切れた」——運動したほうがいいと分かっていても、つい後回しにしてしまうと、始めるきっかけがますます遠のいてしまいます。
始める前に確かめておきたいことがあります。体になぜいま変化が起きているのか、続かなかったのは意志の弱さのせいなのか。そして、体を痛めずに始めるにはどうすればいいのか、最初の一歩をどこに置けばいいのかです。
なぜ、いま始めどきなのか
厚生労働省によると、歳を重ねると基礎代謝量は下がり、その主な理由は筋肉などが減っていくことです。
一例として、体重70kgの男性の場合、基礎代謝量の推定値は20歳代でおよそ1680キロカロリー、30〜49歳でおよそ1561キロカロリー、50〜69歳でおよそ1505キロカロリーです。20歳代と50〜69歳を比べると、その差は1日でおよそ175キロカロリーになります。
体格や性別によって数字は変わりますが、性別を問わず、歳を重ねると基礎代謝量は下がっていきます。
筋肉量の低下は、40代・50代になって急に始まるわけではありません。低下自体は25〜30歳頃から始まり、生涯を通じて進みます。厚生労働省によると、体を活発に動かすことは、この筋肉量の減少を遅らせ、エネルギー消費量が落ちていくのを防ぐことにつながります。日常の身体活動量を増やせば、生活習慣病や心臓・血管の病気になるリスクも減らせるとされています。
「歳のせいだから仕方ない」で片づけるより、いま体を動かし始めるほうが、この先の負担を減らす選択になります。
始められない、本当の理由
「なぜ自分は続けられないのか」と自分を責める前に、知っておきたいことがあります。人が新しい生活習慣を身につけるとき、意志の強さの前に、多くの場合いくつかの段階を通るということです。
厚生労働省が紹介する行動変容ステージモデルでは、生活習慣を変えるとき「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」という5つの段階を通るとされています。このプロセスは一直線には進みません。いったん実行期や維持期に入っても、また前の段階に戻る「逆戻り」が起きることも、モデルの中に織り込まれています。
行動変容ステージモデル
無関心期
関心期
準備期
実行期
維持期
(厚生労働省 e-ヘルスネット「行動変容ステージモデル」)
去年やろうと思って続かなかったことは、失敗ではなく、このプロセスの一部にすぎません。うまくいかなかったやり方をもう一度繰り返す必要はなく、次は運動の種類や時間帯を変えるなど、違うやり方を試せばいいだけです。いま「始めよう」と考えている時点で、無関心期はもう終えています。あとは次にどう動くかだけを考えれば十分です。
始める前に、体のことを一度だけ確認する
運動を始める前に、体のことを一度だけ確認しておきたいところです。厚生労働省の資料によると、ウォーキングのような軽い運動をゆるやかに始める分には、医師の診察は基本的に必要ありません。まず動いてみて構いません。
ただし、持病がある人や、健診で数値を指摘されている人は話が別です。体の状態によって無理のない運動の強さは変わるため、運動を始める前にかかりつけの医師へ確認しておくと安心です。この場合の判断は医師の領分であり、自己判断で運動の強さを決めないことが、そのまま安心です。
もう一つ注意したいのは、久しぶりに体を動かす人が、いきなり息が上がるような激しい運動に飛びつくときです。厚生労働省の資料によると、安静にしているときと比べて、急に激しい運動をしたときの心筋梗塞や突然死の危険度は、研究によって6倍から17倍に増えるとされています。
実際に起きる頻度そのものは非常に低いものの、リスクが特に高まるのは「普段運動していない人が急に激しく動くとき」だとはっきり書かれています。だからこそ、軽い運動から始めて少しずつ強さを上げていくことが、このリスクと、体を動かさないままでいるリスクの両方を避ける道になります。
最初の一歩は、思っているよりずっと小さい
厚生労働省が示す成人の目安は、歩行またはそれと同等の体の動かし方を1日60分以上、または1日にしておよそ8,000歩以上というものです。これだけ聞くと、ハードルは高く感じるかもしれません。ですが、この数字はいきなりクリアしなければいけない目標ではなく、めざす方向を示す目安にすぎません。医師から運動の強さについて具体的な指示を受けている人は、その範囲を優先してください。
厚生労働省が今いちばん前に出しているメッセージは「スイッチ・テン」という合言葉です。中身はシンプルで、今より体を動かす時間を10分増やすこと、それだけです。座りっぱなしの時間を体を動かす時間に切り替えると考えれば、これも同じことを指しています。
目標を小さく区切って、一つずつの成功体験を積み重ねていくことも、厚生労働省の生活習慣見直しの手引きで勧められている考え方です。いつもより一駅手前で降りて歩く。エレベーターの代わりに1階分だけ階段を使う。それくらいの一歩から始めて構いません。
止まっていた時間が長くても、また動き出せば、体はそこから変わり始めます。
※ 出典: 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月公表、厚生労働省 e-ヘルスネット「運動前の健康チェック 最近の考え方」「加齢とエネルギー代謝」「サルコペニア」「身体活動・運動と遺伝的要因」「行動変容ステージモデル」「アクティブガイド2023」、厚生労働省「健康的な体づくりのための生活習慣見直しノート(男性編)解説書」。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。