働き方・キャリア

仕事のやる気が出ないのは、怠けではないかもしれない

仕事に身が入らない自分を、甘えていると責めていませんか。心理学の自己決定理論に基づくと、やる気が出ないのは自律性という心理的な欲求が満たされていない構造の問題であることが少なくありません。周囲への当たりとして表れることもあります。40代・50代に訪れやすい変化と、自律性を取り戻す小さな一歩、受診を考える目安をまとめました。

江原 和比己(産業カウンセラー/かずな総合研究所代表)

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この記事の要点

  • やる気が出ないのは怠けではなく、自律性という心理的な欲求が満たされていないサインで、周囲への当たりとして表れることもある
  • 40代・50代には、出世意欲・ストレス・役割の実感が大きく変化する時期が重なりやすい
  • 気持ちが整うのを待たず、自分で選べる範囲を一つ見つけて動くことが、意欲を取り戻す一歩になる
  • 気分の落ち込みが一日中続き、体の不調も重なって生活に支障が出ているなら、自己判断せず受診・相談を検討する

以前は積極的に取り組めていた仕事に、集中できなくなった。そんな自分を甘えていると責めていませんか。あるいは、それが知らず知らず周囲への当たりとして出ていないでしょうか。

「やる気が出ない」は、自律性という欲求が満たされていないサインかもしれない

アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが唱えた自己決定理論という考え方があります。人が自分から進んで物事に取り組むには、3つの心理的な欲求が満たされている必要があるとする理論です。

欲求 内容
自律性 自分の行動を自分で選び取っているという感覚
有能感 力を発揮できている、うまくやれているという感覚
関係性 誰かとつながっている、大事にされているという感覚

デシとライアンの研究では、指示や管理の厳しい環境ほど、外から与えられた目標がその人の中に根づきにくく、根づいても義務感でやっているだけになりやすいことがわかっています。

上司の指示や会社の方針を、自分の意思とは関係なくただこなしているだけだと感じているとき、やる気がなくなったのではなく、本来のやる気が妨げられているのかもしれません。気合いや根性が足りないからではなく、自律性という欲求が機能しにくくなっているサインであることが少なくありません。

やる気が出ない時期に、身近な人への当たりが強くなっていないか、一度振り返ってみる価値があります。

40代・50代は、役割や気力の変化が重なりやすい時期

40代から50代にかけては、仕事への向き合い方が変わりやすい時期でもあります。パーソル総合研究所が法政大学大学院石山恒貴研究室と共同で行った調査によると、任された役割を果たせている手応えが最も薄れる年齢は50〜51歳という結果が出ています。

50〜51歳

役割を果たせている手応えが最も薄れる

45〜49歳

仕事のストレスが最も高くなる

42.5歳

出世意欲が「したい」から「したくない」に逆転

(50〜51歳: パーソル総合研究所×法政大学大学院石山恒貴研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」2017年/45〜49歳・42.5歳: パーソル総合研究所「1万人成長実態調査」2017年)

出世に対する意欲の逆転(42.5歳)とストレスのピーク(45〜49歳)は、パーソル総合研究所が単独で行った別の調査によるものです。

これまで追いかけてきた目標が、本当に自分で選んだものだったのか、立ち止まって考え直したくなる時期でもあります。

体の変化が重なることもあります。更年期に現れる症状として、ほてりや疲れやすさといった体の症状とあわせて、気分の落ち込みややる気が出なくなることが、厚生労働省の資料に挙げられています。男性にも起こりうる変化ですが、男性更年期の仕組みはまだよくわかっていないとされています。

疲れそのものへの向き合い方は、疲れの度合いを測るところから始めるセルフケアにまとめています。

自律性を取り戻す、小さな一歩

気持ちが整理されてから動こうとすると、そのタイミングはなかなか訪れません。先に小さく動いてみるほうが、気持ちは後から自然に整ってくることがあります。

やる気が出ない理由をあれこれ考えるより、今までのやり方の中で違う対応を一つ試してみるほうが、案外早く変化につながることがあります。

この一歩は、大きく決めることである必要はありません。会議の進め方を少しだけ自分のやり方に変えてみる、資料の作り方を自分なりに工夫してみる、仕事の順番を自分の判断で組み替えてみるなど、任された仕事の中で自分で決められる部分を一つ見つけて、実際にやってみることです。

自律性は誰かに与えられるものではなく、自分で選んでいると感じることが、やる気につながります。すべてを自分で決められなくても、選べる範囲が少しでも増えれば、そこからやる気は変わっていく可能性があります。

いつ受診・相談を考えるか

自分なりの工夫を試しても、気分の落ち込みが続いているなら、セルフケアだけでは足りないこともあります。気分の落ち込みが一日中続いて何をしても楽しめず、そこに眠れない、食欲がない、疲れやすいといった体の不調が重なり、日常生活に大きな支障が出ているなら、うつ病の可能性があると、国立精神・神経医療研究センターは説明しています。

厚生労働省の「こころの耳」によると、ストレスが自分の対応できる範囲を越えたときに生じる、情緒や行動面の不調を指す適応障害という状態もあります。うつ病など、他の精神疾患の診断がつくには至っていない状態です。

うつ病かなと思ったら、自己判断をせずに、総合病院の精神科や心療内科、精神科のクリニックに相談することを、国立精神・神経医療研究センターは勧めています。適応障害が疑われるときも、同じ窓口が相談先になります。内科などのかかりつけの医師や、保健所、精神保健福祉センターの相談窓口を使うこともできます。

うつ病や適応障害の可能性があるときは、何よりもまず相談することが最初の一歩です。

※ 出典: Ryan, R. M., & Deci, E. L.「Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being」American Psychologist誌55巻1号(2000年)、パーソル総合研究所×法政大学大学院石山恒貴研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年)、パーソル総合研究所「1万人成長実態調査」(2017年)、厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」結果概要(2022年)、国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病、厚生労働省「こころの耳」用語解説「適応障害」。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。

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