会社の相談窓口を使おうとして、話した内容が上司や人事に伝わってしまうのではないかと申し込みをためらった。そんな経験があるなら、まず知っておいてほしいことがあります。
法律で定められた業務としての産業医面談や、外部委託の窓口では、相談した具体的な内容は、法律や業界の基準によって、本人の同意なく会社に伝わらないよう作られています。ただし、窓口の種類や状況によって、伝わり方には違いがあります。
相談窓口の種類によって、守られ方が違う
会社の相談窓口といっても、いくつかの種類があり、秘密の守られ方は同じではありません。ハラスメントの相談では、窓口が事実確認のために行為者にも話を聞くことが多くあります。行為者とは、ハラスメントをしたとされる相手のことです。
| 窓口 | 特徴 |
|---|---|
| 社内の人事窓口 | 会社の従業員が対応する。就業上の判断に関わる情報は、人事の中で共有されることが多い |
| 産業医面談 | 医師が対応する。健康診断やストレスチェック後の面接指導など、法律で定められた業務についての相談は、詳細な内容が原則として同意なく会社に伝わらない |
| 外部委託の従業員支援プログラム(EAP) | 会社とは別の外部機関が運営し、相談内容は原則として会社に伝えられない |
| ハラスメント相談窓口 | 事実確認のため行為者への聞き取りが必要になることが多く、その過程で行為者や周囲に相談者だと分かってしまうおそれがある |
窓口を選べる場合は、こうした違いを知っておくと選びやすくなります。
法律で、相談内容の詳細は守られている
産業医面談やストレスチェックについては、労働安全衛生法が秘密を守る決まりを定めています。
同法第66条の10は、ストレスチェックの検査結果について、検査を行った医師等が、本人の同意を得ないで事業者に提供してはならないと定めています。面接指導を受けたいと申し出たことを理由に、会社が不利益な扱いをすることも禁じられています。また同法第105条は、健康診断や面接指導を担当した人に対して、その仕事の中で知った労働者の秘密を漏らしてはならないと定めており、違反すると罰則があります。
外部委託のEAPについても、相談を担当するEAPの専門家は、業界団体である国際EAP協会日本支部の倫理綱領により、原則として、署名入りの同意書がない限り、会社の窓口担当者に相談内容を伝えてはならないとされています。会社がEAPの利用を正式に案内した場合や、上司から個別に勧められた場合であっても同じです。
ただし、これは業界団体が自主的に定めた基準であり、法律のように必ず守らせる力を持つものではありません。実際にどこまで守られるかは、会社がどのEAP事業者とどのような契約を結んでいるかによっても変わります。
それでも会社に伝わることがある
相談した詳細な内容が同意なく伝わらないとしても、状況によっては情報が会社に届きます。
| 会社に情報が伝わる場合 | 伝わる内容 |
|---|---|
| 本人が明示的に同意した場合 | 本人が同意した範囲の内容 |
| ストレスチェック後、面接指導を申し出た場合 | 原則として詳しいストレスの結果まで。判定結果のみに限定する勤務先もある |
| 面接指導後、就業上の措置が必要な場合 | 措置に必要な最小限の意見のみ |
| EAPで、命に関わる危険が疑われると判断された場合 | 必要な範囲の情報 |
このうち特に知っておきたいのが、面接指導を申し出たときの扱いです。ストレスチェックで高ストレスと判定された人が、産業医などによる面接指導を申し出ると、指針では、その申出自体を、ストレスチェックの結果を会社に提供することへの同意とみなしてよいとされています。原則としては、自覚症状などを含む詳しい結果まで会社に伝わりうる仕組みですが、面接指導が必要と判定された旨だけを伝える運用にしている勤務先もあります。
不安なときは、面接指導を申し出る前に、勤務先の産業保健スタッフや人事に、どちらの運用かを確認しておくと安心です。
面接指導そのもので話した内容の詳細や、面接指導のあとに医師が会社へ提出する意見書は、これとは別です。話した内容そのものは同意なく会社に伝わらず、意見書に書かれるのも必要最小限の情報だけで、具体的な症状や診断名までは、原則として記載されません。
外部委託のEAPでは、署名入りの同意書がない限り伝えないという原則にも例外があります。EAPの専門家は、命に関わる危険が疑われるなど、身体の安全が差し迫った危機にあると判断したときは、同意がなくても必要な範囲で情報を共有することがあります。
ハラスメント相談には、別の伝わり方がある
そもそも、上司の言動がパワハラにあたるのか判断がつかず、相談すること自体をためらう。そんな経験があるなら、声を荒げない上司の言動の見分け方は、静かなパワハラの見分け方——怒鳴らない上司ほど厄介な理由で扱っています。
ハラスメントの相談では、産業医面談やEAPとは別の伝わり方があります。
窓口が対応を進めるには行為者への事実確認が必要になることが多く、その過程で行為者や周囲に、誰が相談したかが推測されてしまう場合があります。
厚生労働省の指針は、この場面でのプライバシー保護を事業主に義務づけています。厚生労働省のハラスメント総合情報サイト「あかるい職場応援団」は、窓口が行為者へ確認を行う際は相談者の同意を得たうえで行い、相談者だとわからないようにする、といった具体的な注意点を示しています。
こうした配慮があっても、職場の人数が少ないなど状況によっては、相談者が特定されてしまうことがあります。窓口を使う人が少ない小規模な職場では、産業医面談やEAPを含め、誰が利用したかが人数の少なさ自体から推測されやすいと考えられます。
相談の最初に、自分から確認していい
不安なまま相談を先延ばしにするより、相談の最初に「今日話した内容は、どこまで会社に伝わりますか」と確認していいのです。仕組みを説明することも窓口の役割のひとつであり、聞くこと自体は失礼ではありません。
窓口によって答え方は変わります。産業医面談なら、詳細は伝わらず、必要なときだけ最小限の意見が伝わることを説明してもらえるはずです。
ストレスチェック後の面接指導は、申し出ること自体が結果提供への同意とみなされるため、申し出る前に、勤務先の産業保健スタッフや人事に、どこまでの情報が伝わる運用になっているかを確認しておくと安心です。
ハラスメント相談なら、事実確認をどう進めるか、相談者だとどこまで分かってしまうかを、対応を始める前に聞いておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
答えを聞いたうえで、それでも不安が残るなら、話す範囲を自分で選ぶこともできます。最初からすべてを話す必要はなく、今日は状況だけを伝え、詳しい経緯は次に回すという進め方もできます。
ここまで、会社に伝わる範囲を確認する方法を見てきました。ただ、確認する以前に、そもそも誰かに相談すること自体に抵抗を感じる。性別に関わらず、そう感じたことはないでしょうか。その一歩の踏み出し方は、男性が「助けて」と言えない理由と、それでも相談するにはで扱っています。
相談した後、対応そのものでつらい思いをする。そんな経験があるなら、相談したのに二次被害を受けたと感じたとき(セカンドハラスメント)で扱っています。
※ 出典: 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の10、第105条、第119条。厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」。一般社団法人国際EAP協会日本支部「EAPA倫理綱領」(2024年8月改定)。厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)。厚生労働省「あかるい職場応援団」Q&A。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。