職場の人間関係

静かなパワハラの見分け方——怒鳴らない上司ほど厄介な理由

声を荒げない上司の無視や正論攻めに、これはパワハラなのか自分が過敏なだけなのか、判断がつかなくなったことはありませんか。曖昧な言動ほど見分けにくい理由、厚生労働省の指針が示す3つの区分への当てはめ方、指導との境目の見分け方まで、順を追ってまとめました。

江原 和比己(産業カウンセラー/かずな総合研究所代表)

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この記事の要点

  • 怒鳴らない上司の言動が見分けにくいのは、曖昧な言動と大きな力関係の差が重なると自分を疑う気持ちが生まれやすいから
  • 厚生労働省の指針が定める6つの区分のうち、精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過小な要求の3つに当てはめて確認できる
  • 「指導」との境目は、目的や頻度、落ち度の有無などを手がかりに見分けられる
  • 判断に迷うときは、記録をつけ始めるという小さな一歩から始めるとよい

正論で長い時間問い詰められた。次の日には何事もなかったように無視された。声を荒げられたわけでも、手を上げられたわけでもない。それでも、足がすくむような重さだけが残った。そんな経験があるなら、その感覚を「気にしすぎ」で片付ける前に、知っておいてほしいことがあります。

なぜ「怒鳴らない」ほうが見分けにくいのか

無視や正論攻めのように、怒鳴り声や暴言を伴わないハラスメントを、ここでは「静かなパワハラ」と呼びます。声を荒げる言動は、誰の耳にも同じように届き、何が起きたかがはっきりしているからこそ、周囲も「あれはおかしい」と気づきやすくなります。

一方、無視や、淡々とした正論での問い詰め、必要な情報を渡さないといった言動は、周囲から見れば「厳しい指導」にしか見えないことがあります。後から思い返して、「本当にあれはおかしかったのか」と自信が持てなくなることもあります。

上司と部下という大きな力の差がある関係のなかで、こうした曖昧な言動が続くと、自分の受け止め方に自信を持てなくなりやすくなります。これは心理学の研究でも指摘されています。「気にしすぎかもしれない」という感覚は、受け止め方がおかしいから生まれているのではありません。曖昧な言動と力の差が重なったときに、そう感じやすくなるだけです。

「怒鳴らない上司」の言動を、法律の基準に当てはめる

厚生労働省の指針は、職場のパワーハラスメントを6つの区分に整理しています。区分は言動の内容で分かれており、大声で怒鳴ることは必須の要件ではありません。怒鳴らない上司の言動も、特に次の3つに当てはまりやすいものです。

区分 指針が挙げる具体例 怒鳴らない上司に見られやすい形
精神的な攻撃 人格を否定するような言動を行うこと 声を荒げずに、淡々と人格そのものを否定する言い方をする
人間関係からの切り離し 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること あいさつを返さない、会議で発言を無視する、本人だけ業務連絡から外す
過小な要求 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと 必要な情報や仕事を渡さず、実質的に仕事から外す

一度きりの出来事やうっかりの見落としが、そのままパワハラに当たるわけではありません。過小な要求は、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事そのものを与えなかったりすることを指します。労働者の能力に応じて業務内容や業務量を一定程度軽減すること自体は、それだけでパワハラに当たるものではありません。

「ロジハラ」(正論で問い詰めること)や「フキハラ」(不機嫌な態度で相手をすくませること)といった呼び名がSNSやメディアで使われることもありますが、法律上の正式な区分ではありません。実際に起きていることを確かめるときは、上の3つの区分に当てはめて考えるほうが役立ちます。

厚生労働省委託の調査でも、パワハラを受けたと回答した人が挙げた内容(複数回答)のうち、精神的な攻撃が48.5%でもっとも多く報告されています。

「指導」との境目をどう見分けるか

厚生労働省の指針は、業務上必要かつ相当な範囲で行われる指示・指導は、パワーハラスメントにあてはまらないとしています。境目を見分けるときは、次の3つを自分に問いかけてみると整理しやすくなります。

  • 指摘の目的が、業務の改善ではなく人格そのものへの攻撃に見えるか
  • 一度の注意で終わらず、繰り返し・長期間続いているか
  • これといった業務上の落ち度がないのに、指摘を受けているか

3つとも「はい」と答えられるからといって、それだけでパワハラと確定するわけではありません。指針も、言動の目的や頻度、指摘される側に落ち度があったかどうか、業務の内容などいくつもの要素を、あわせて考えることが必要だとしています。それでも、この3つの問いに答えようとするだけで、「指導かもしれない」で止まっていた考えが少し先に進みます。

自分の受け止め方が正しいか迷うときの整理の仕方

同僚に話してみても、「気にしすぎじゃない?」と言われることもあるかもしれません。無視や淡々とした正論攻めは、その場に居合わせていない人には伝わりにくいものです。周囲の反応だけで、出来事の重さは決まりません。判断の手がかりは、先ほどの3つの区分や、指導との境目の問いにあります。

気持ちの整理がついてから動こうとすると、その日はなかなか来ません。先に、いつ・どこで・誰の前で何を言われたか、あるいは何をされなかったかを短くメモしておくという小さな一歩から始めると、気持ちのほうが後から追いついてきます。

事実だけでなく、そのとき自分がどう感じたかも一緒に書き留めておくと、後から読み返したときに状況がつかみやすくなります。書き留めたものを読み返すと、単発の出来事だと思っていたことが、実は繰り返されていたと気づくこともあります。

次にどうすればいいか

一人で抱え込まず、まず誰かに話してみることも一つの選択肢です。社内の相談窓口を使う場合、相談内容がどこまで会社に伝わるかを事前に確認できます。会社の相談窓口を使ったら、相談内容は会社に伝わるのかで、窓口ごとの違いを詳しく扱っています。

無視・ため息・不機嫌といった一つひとつの言動に、それぞれどう向き合えばいいかは、noteの記事「怒鳴られないからこそ苦しい。「無視」「ため息」「不機嫌」という職場の静かなパワハラ」で詳しく扱っています。

※ 出典: 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)、厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」、Popat, N., & Pandey, J.(2026)"Workplace gaslighting: a construct for organizational research" Frontiers in Psychology.

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。

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