上司や相談窓口に、勇気を出してハラスメントのことを伝えた。それなのに、加害者の態度も、職場の空気も、何ひとつ変わっていない。そんな経験があるなら、それは気のせいではありません。何も変わっていないように見えるのには、理由があります。
「何も変わらない」と感じるのは、めずらしくない
厚生労働省の令和5年度実態調査(2024年3月)は、ハラスメントを受けたと回答し、勤務先もそのことを知っていたと答えた人に、勤務先の対応を尋ねています。53.2%が「特に何もしなかった」と答えました(パワハラ、n=573)。
パーソル総合研究所が2022年に行った調査でも、本人が相談・申告など何らかの行動を取り、勤務先も何らかの対応をした場合を見ると、「状況に変化はない」と答えた人が14.0%、「悪化している」と答えた人が2.6%います(n=493)。
「なくなった」「改善された」と答えた人が合わせて31.5%を占める一方、対応があった場合でも、約6人に1人は変わらない、あるいは悪化したと感じています(このほかに、ハラスメントをした相手との接点がなくなったと答えた人が45.6%います)。
会社が対応していても、何をしたかが見えないことがある
会社が何らかの対応をしていても、具体的に何をしたかが相談者に伝わるとは限りません。厚生労働省のパワハラ防止指針は、相談者・行為者(ハラスメントをしたとされる相手)双方の情報を「プライバシーに属するもの」として扱い、事業主に保護を義務づけています(令和2年厚生労働省告示第5号4⑷イ)。ただし、事実確認の状況や措置の内容を相談者に知らせることまでは、義務づけていません。
厚労省の同じ調査では、勤務先がハラスメントの事実を認めた人だけに絞って聞いても、「会社が調査した結果について説明した」と答えた人はパワハラでわずか12.0%です(n=108)。
一方、相談した窓口の対応そのもので責められた、傷ついたと感じる場合は、また別の問題です。相談したのに二次被害を受けたと感じたとき(セカンドハラスメント)で扱っています。
「対応している」と言えるために、会社がすべきこと
会社が何をしているのか分からないとき、手がかりになるのが、事業主に義務づけられた対応の中身です。労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)は、事業主に「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を義務づけており(第30条の2第1項)、厚生労働省の指針はその具体的な内容を示しています。
| 会社が行うべきこと | 具体的な内容 |
|---|---|
| 相談体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する |
| 事実確認 | 相談者・行為者双方から、迅速かつ正確に事実関係を確認する |
| 被害者への配慮 | 関係改善の援助、配置転換、行為者の謝罪、労働条件の回復など |
| 行為者への措置 | 就業規則等に基づき、適正な措置を行う |
| 再発防止 | 事実が確認できなかった場合も含め、方針の周知・啓発を行う |
窓口からの連絡を待つだけでなく、相談した窓口に「事実確認は終わっていますか」「何らかの措置は取られましたか」と、自分から尋ねることもできます。指針は事実確認の状況や措置の内容を相談者に知らせることを義務づけていません。それでも、自分から尋ねてかまいません。
社内で行き詰まったとき、次の一手はあるか
社内の窓口で状況が動かないと感じたら、社外に相談する選択肢もあります。厚生労働省が設置する総合労働相談コーナーでは、無料でハラスメントを含む労働問題を相談できます。窓口の使い方に迷ったら、メンタルヘルス不調を理由に不利益な扱いを受けたと感じたときという記事でも扱っています。
総合労働相談コーナーに相談すると、都道府県労働局長のもとに置かれた紛争調整委員会による調停につながることがあります。調停は、労働者本人からの申請だけでも受け付けられます(労働施策総合推進法第30条の6第1項)。
ただし、調停はあくまで話し合いを促す手続きで、会社側に参加や合意を強制する法的な力はありません。紛争調整委員会は、話し合いによる解決の見込みがないと判断すれば、調停を打ち切ることができます(男女雇用機会均等法第23条第1項、労働施策総合推進法第30条の7)。
それでも、社内だけでは動かなかった話し合いが、社外の第三者が入ることで前に進むこともあります。強制力がないことを知ったうえで、試す価値のある選択肢です。
それでも変わらないと感じたら
ここまでの手を尽くしても、状況が変わらない、あるいは悪化したと感じることはあります。そのときは、会社そのものに期待するのをやめる前に、何に期待するかを選び直してもいいのかもしれません。そのことは、会社に期待しなくなったのは、無関心になったからではないという記事で扱っています。
相談したこと自体は、決して間違った選択ではありません。声を上げたという事実は、これから何を選ぶかを考えるための材料になります。
※ 出典: 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(2024年3月)、パーソル総合研究所「職場のハラスメントについての定量調査」(2022年)、厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年)、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の2・第30条の6・第30条の7、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第23条第1項。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。