家族・介護

親の介護が始まったとき、仕事との両立で消耗しないために

親の介護が始まったばかりの時期に、仕事との両立で消耗しないための向き合い方を紹介します。一人で抱え込みやすくなる心理的な構造、両立支援制度は詳しくなるより早く職場に伝えることが大事な理由、そして完璧な体制を目指さない考え方まで、最初の一歩を具体的に示します。

江原 和比己(産業カウンセラー/かずな総合研究所代表)

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この記事の要点

  • 介護が始まったときに一人で抱え込みやすいのは性格の問題ではなく、育児と違って始まりがはっきりしないという構造のため
  • 実際に介護で仕事を辞めた人の多くが、両立支援制度を早く知っていれば続けられたと答えている
  • 制度の中身に詳しくなる必要はない。あるとだけ知っておき、早めに人事や上司に一声かけておくことが選べる手立てを広げる
  • 完璧な体制を目指さず、少しずつ組み直しながら両立を続けることが消耗を防ぐ

親が転んで入院した、物忘れが急に増えた。そんなきっかけで、介護は前触れなく始まります。何から手をつければいいかわからないまま、仕事の合間に病院や自治体とのやり取りが重なり、気づいたときには一人で抱え込んでいる。介護が始まった直後にこそ、消耗しないための向き合い方を決めておく必要があります。

一人で抱え込みやすいのは、性格の問題ではない

介護と仕事の両立が特に難しいのは、介護には育児のようなはっきりした始まりがないためです。物忘れが増えた親を心配して有給休暇で付き添う、そんな形ですでに実質的な介護が始まっているのに、本人にその自覚がないまま日々が過ぎていきます。

働く人は、目の前のやるべきことを終わらせることを優先し、自分がどれだけ消耗しているかは後回しにしやすいものです。仕事も介護も同時にこなせている間は、それでうまく回っているように見えます。抱え込んでいることに気づくのは、たいてい両方が重なって限界に近づいてからです。職場に伝えるタイミングを逃したまま、抱え込む期間が長くなっていくのはこのためです。

厚生労働省の調査では、介護を理由に仕事を辞めた人に、何があれば続けられたと思うか尋ねています。最も多かった回答は「両立支援制度についての個別の周知」で55.1%、次いで「両立に関する相談窓口の設置」が33.7%でした。

仕事を続けられたと思う職場の取組の割合(上位2項目)

両立支援制度の個別周知 55.1%
両立の相談窓口の設置 33.7%

(厚生労働省「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書(労働者調査)」)

辞めた人の多くが、両立支援制度を早く知っていれば続けられたと振り返っています。ここで必要なのは、制度に詳しくなることではなく、そういう制度があると知っておくことと、早い段階で職場に一声かけておくことです。気持ちの整理がついてから伝えようとすると、その日はなかなか来ません。先に一声かけてしまえば、気持ちのほうが後から追いついてきます。

両立支援制度は「知っておくだけ」でいい

経済産業省の推計では、2030年に家族を介護する833万人のうち約4割にあたる318万人が、仕事をしながら家族の介護をする「ビジネスケアラー」になるとされています。特殊な状況ではなく、これだけの規模の人が同じ両立に向き合うことになります。

2030年に見込まれる家族介護者の内訳

家族を介護する人全体 833万人
仕事をしながら介護する人 318万人

(経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」, 2024年)

会社にも、仕事を辞めずに介護と両立するための両立支援制度が用意されています。介護休業は、対象家族1人につき3回、通算93日まで分割して取得できる制度です。雇用保険の被保険者で一定の要件を満たす人には、休業開始時の賃金日額の67%にあたる給付金も支給されます。細かい条件は人事やハローワークに確認すればわかることです。

ここで大事なのは、制度を自分で調べ尽くすことではありません。早い段階で人事や上司に一声かけておくほうが、後になって選べる手立てが増えます。介護は始まりがはっきりしないからこそ、様子を見てから伝えようとすると、伝えるタイミングをずっと逃し続けることになります。

完璧な介護を目指さない

介護は、始まりも終わりも自分では選べません。認知症の進み方も、要介護度の変化も予測がつかないまま、何年も続くことがあります。先が見えないこと自体が、負担を重くします。

だからこそ、最初から完璧な体制を作ろうとする必要はありません。今すでにうまく回っている部分は、無理に変えなくていいのです。デイサービスの曜日も、きょうだいとの役割分担も、今のかたちでやれているなら、そのまま続けて構いません。

うまくいっていない部分だけ、何がいけなかったのかを掘り下げて反省するより、次は違うやり方を試すほうが近道です。曜日を変える、役割を渡し直す、勤務時間をずらす。どれも小さな変更ですが、小さな変更の積み重ねが、体制を持続可能なものに変えていきます。

今日決めた分担が半年後には合わなくなっても、そのたびに組み直せばよく、一度でうまくいかせる必要はありません。

うまくいかない日があっても、それは介護を続けてきた証拠です。完璧な一歩でなくていい。小さな一歩を選び直しながら、また歩き出していけば十分です。

一人で背負わず、頼れる先を増やす

介護の負担は、一人で背負うほど重くなります。まず頼れるのは、職場の上司や同僚、そして家族です。きょうだいや配偶者など頼れる相手がいる場合は、早い段階で介護の全体像を共有しておくことも助けになります。

関わってくれないと感じる相手も、最初から薄情なわけではありません。役割を渡し、状況を共有するところから、関わり方は変わっていきます。誰が何をどこまで担うか、一人で決めずに話し合っておくと、あとの負担がかなり違ってきます。

高齢者に関する相談を幅広く受け付けている、地域包括支援センターという公的な窓口もあります。全国に5,487か所あり、要介護認定の相談や介護保険サービスの利用について案内してくれます。制度の使い方に迷ったとき、ここに聞けば済むという場所を一つ持っておくだけで、気持ちが軽くなります。

負担が大きくなってきたと感じたら、それは弱さではありません。一人で判断せず、会社の相談窓口や信頼できる周囲の人に話してみてください。頼れる先を少しずつ増やしていくことが、消耗せずに介護と仕事の両立を続ける力になります。

※ 出典: 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(地域包括支援センターについて)、厚生労働省「介護休業」制度ページ、厚生労働省・ハローワーク「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」、経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2024年3月)、厚生労働省「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書(労働者調査)」。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。

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