来月から別の部署へ移ってもらう。面談でそう告げられてから、そのことばかり考えてしまう。なぜ自分なのか、要らないと思われたのではないか。そんな問いが浮かぶのは、自然なことです。
ただ、異動の理由は説明されないこともあり、一人で考え続けても答えにたどり着けないことがあります。一方で、着任の時期や勤務地、担当する仕事がどう変わるのかは、これから一つずつ確かめていけます。気持ちの整理がつく前でも、そこからなら手をつけられます。
着任までに、何が変わるのかを確かめる
内示で伝えられるのは、部署名と時期だけのこともあります。分からないまま着任日を迎えないように、次のことを確かめておきます。
| 確かめること | 確かめる先 |
|---|---|
| 着任の時期と、今の仕事の引き継ぎ先・期限 | 上司、または内示を伝えた人 |
| 勤務地と、通勤や転居が要るかどうか | 内示を伝えた人、人事の担当者、辞令 |
| 異動先で担当する業務の中身 | 異動先の上司 |
| 役職・給与・手当が変わるかどうか | 人事の担当者、就業規則、賃金規程 |
異動に納得できていなくても、聞いて構いません。受けるにしても条件を相談するにしても、その材料になります。
労働条件通知書や雇用契約書も開いておきます。2024年4月から、会社は労働契約を結ぶときに、就業場所・業務の「変更の範囲」も明示することになりました(労働基準法施行規則第5条)。この先の配置転換などで変わるかもしれない範囲のことです。
それより前に入社した人の書面には、書かれていないことがあります。欄があれば、今回の異動先がその範囲に入っているかを見ておきます。外に見えるなら、会社に理由を尋ねるときの材料になります。
事情があるなら、着任前に伝える
子どもの送り迎えがある、親の介護をしている、通院を続けている。異動で今の生活が続けられなくなる事情があるなら、着任の前に、内示を伝えた上司か人事の担当者に伝えておきます。
受けるか断るかより先に、「勤務地が変わると、平日夕方の介護に間に合わなくなる」のように、何が難しくなるのかを場面と時間で話すと、相手も何なら変えられるかを考えやすくなります。着任してから勤務の形を変えてもらうより、着任前のほうが相談できる幅は広いはずです。
勤務地が変わることで子育てや家族の介護が難しくなる人がいるときは、会社はその状況に配慮しなければなりません(育児・介護休業法第26条)。配慮の義務であって、異動が取りやめになるとは限りません。介護と仕事の両立そのものは、親の介護が始まったとき、仕事との両立で消耗しないためにで詳しく扱っています。
伝えても話が進まない、異動そのものに納得できない。そう感じたら、会社とご自身のどちらが正しいかを一人で決めなくて構いません。厚生労働省の総合労働相談コーナー(外部サイト・新しいタブで開きます)は、配置転換を含む労働問題を対象にしていて、予約なしで無料で相談できます。
着任してしばらくは、覚える側に戻っていい
前の部署では、誰に聞くか、どこまで自分で決めてよいかを考えずに動けていたかもしれません。異動先では、その見当を一からつけ直すことになります。
「前の部署ならすぐにできたのに」と感じる日が続けば、気持ちが沈むのも無理はありません。そのうえで、できなくなっているのは力そのものより、力を使うための段取りのほうではないかと考えています。
最初に覚えることは、3つに絞っておくと迷いが減ります。
- 誰に相談し、誰の了承を取れば仕事が進むか
- 仕事の流れと、週ごと・月ごとの締め切り
- その部署で使う略語や呼び名
1つ目は、周りに尋ねながら覚えていくことになります。年次が上になってからの異動では、尋ねるのをためらうかもしれません。着任の挨拶で「しばらくは教わる側です」と言っておけば、あとで聞くたびに前置きをしなくて済みます。
前の部署のやり方は、今のやり方を一通り見てから出しても遅くありません。うまく回っている部分はそのままにして、変えたほうがよさそうなところが見えてきたら出してみる。仕事の頼み方の勘、判断に迷ったときの基準、社内の知り合いも、流れが見えてきたところで使えます。
うまく進んだ日は、何がよかったのかを一行書き留めておくと、次の日も繰り返せます。うまくいかなかった日は、原因をたどるより、聞く相手を変える、確認を早めに頼むといった違うやり方を一つ試すほうが、次につながりやすいと考えています。
辞めるかどうかは、異動先で働いてみてから決める
異動をきっかけに辞めようかと考えるのは、おかしなことではありません。ただ、その結論は、告げられた直後に急いで出さなくても構いません。
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」は、うつ状態では物事を悪いほうに受け取るようになると説明しています。そこまでではなくても、気持ちが沈んでいる時期は、同じ条件でも悪いほうに見えやすいと考えています。
だから考えること自体はやめずに、結論を出すのは異動先の仕事をいくらか経験してからにする、と決めておきます。働いてみてどうだったかも、判断の材料に入ります。役職が外れる異動だった場合は、役職を外されたとき、何が変わって、何が変わっていないかもあわせて読んでみてください。
同センターによれば、一日中気分が落ち込む、何をしても楽しめないといった状態に、眠れない、食欲がないといった体の症状が加わり、日常生活に大きな支障が出ている場合は、うつ病の可能性があります。原因と思われる問題を解決しても、気分が回復しないこともあるとされています。
異動先の仕事が回り始めても、眠れない、食欲がないといった状態が続くなら、落ち着けば戻るはずだと待たないでください。自己判断をせずに、総合病院の精神科や心療内科、精神科のクリニックなどに相談しましょう。内科などのかかりつけの医師や、保健所、精神保健福祉センターの相談窓口を利用することもできます。
異動は、これまでの仕事の一区切りでもあり、積み上げてきたものを別の場所で使い直す機会でもあると考えています。何が変わって何を持っていけるのかが見えてくると、異動先での一歩目も決めやすくなります。
※ 出典: 労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)第5条(e-Gov法令検索)、2026年9月23日閲覧。厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」(リーフレット)、2026年9月23日閲覧。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第26条(e-Gov法令検索)、2026年9月23日閲覧。厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」、2026年9月7日閲覧。国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」うつ病、2026年9月12日閲覧。「変更の範囲」の説明は、同リーフレットの注記による。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会認定)/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員/かずな総合研究所 代表。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。100kmウルトラマラソン完走者。